技能実習生広がる不安、ベトナム人来日なお困難【日本新聞2021年10月25日】

建設現場で働く技能実習生

【ハノイ=大西智也】新型コロナウイルスの水際対策で外国人の来日足止めが続くなか、外国人技能実習制度での就労を目指すベトナム人の間で不安が広がっている。渡航のめどが立たず、資金の工面といった苦労がつきまとう。最低賃金違反や違法残業など制度の問題点が指摘されるなか、優秀な外国人人材を獲得し続けるためにも、抜本的な改革を求める声もある。

「先生、おはようございます」。ベトナムの首都ハノイ市の送り出し機関では、毎朝9時、日本語のオンライン授業が始まる。今年1月から日本の受け入れが止まり、「ベトナム国内での雇用機会は限られ、生徒たちは生活の不安に直面している」(送り出し機関の担当者)。

1993年に始まった技能実習制度。日本で学んだ技術や技能を母国で生かしてもらう「国際協力の推進」を目的に導入された。実習生は最長で5年間日本で働くことができる。ベトナム人は同制度の半分以上を占める。

「実家を3階建てに建て替えることができ、親に恩返しができた」。ハノイ近郊のフンイエン省に住むファン・バン・ズンさん(28)は2015年から群馬県の自動車部品工場で働いたことが人生の転機になったという。日本で培った技術を生かしてベトナムで起業し、成功を収めるケースも少なくない。

ベトナムからみれば「ジャパニーズ・ドリーム」の実現可能な制度だが、実質的には日本の労働力不足の受け皿になっている。「不当な理由で解雇を言い渡された」「長時間労働をさせられ、誰も助けてくれなかった」。原則として職場を変えることができず、労働局には賃金の未払いや不当労働の問題に関する相談が相次ぐ。実習生の失踪者数は20年に6千人弱に達し、6割超がベトナム人だ。

背景には実習生が支払う高額な手数料の問題がある。ベトナムの送り出し機関が実習生から得られる手数料は3600ドル(約40万円)が上限だが、多くの場合ブローカーが介在し、さらなる費用が求められる。費用が100万円近くに膨らむこともあり、親類から借金するケースも少なくない。受け入れる企業側の立場が強いため、深刻な問題が生じても、表ざたになりにくい。

法務省によるとベトナムは16年に実習生の国・地域別でトップになり、ベトナムからみても日本が最大の派遣先だ。ベトナムの統計によると日本での平均月収は1200~1400ドル。ベトナム国内で働くより3倍以上。派遣先で2位の台湾と比べても約1、7倍高い平均月収を得られる。

それでも制度の問題を放置すれば、他国との人材獲得競争がおぼつかなくなる。ベトナムでもコロナ前までは年7%成長が続き、1人当たり国内総生産(GDP)は耐久消費財が一気に普及する3000ドルを超え、国内で働く条件や魅力は徐々に高まっていく。かつては日本への最大の人材供給国だった中国は人口減が目前に迫っており、人材争奪戦が起きるのは確実だ。「高い給料を提示されれば、日本は勝つのは難しい」(送り出し機関幹部)

技能実習制度を含む外国人の受け入れ体制を改善していかなければ、優れた外国人材に日本が敬遠されかねない。コロナの影響による解雇も増え、国際協力とかけ離れた「雇用の調整弁」としての実態も改めて露呈している。実習生の相談を受け付ける民間組織「越日希望の轍(わだち)プロジェクト」代表の伏原宏太さんは「技能実習制度の構造問題を放置せずに、抜本的な改革に取り組んでほしい」と話している。

日本経済新聞

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