取引先に外国人材仲介、将来の資金需要へ 香川銀行【日本経済新聞2021年8月17日】

地域金融の今 融資を超えて①

光寿会の特別養護老人ホーム「あかね」では、ミャンマーの技能実習生を受け入れている

新型コロナウイルスは少子高齢化や人口減といった構造的な課題を抱える地方企業の経営に追い打ちをかけた。地場企業と運命共同体にある金融機関には、取引先を存続させ業績を伸ばす役割がこれまで以上に求められている。従来型の融資だけにとどまらない、四国金融機関の今を追う。

2019年11月、香川と愛媛の医療機関・介護事業者7社の計10人が、ミャンマー最大の都市ヤンゴンを訪れた。訪問先では介護分野の外国人技能実習生を受け入れるべく面接を実施。この面接ツアーを主催したのが、香川の第二地銀である香川銀行だった。

地方での介護人材不足は喫緊の課題だ。厚生労働省によると25年度に全国で必要とされる介護職員は243万人なのに対し、19年度の介護職員数は211万人。今後さらに需要は増す。介護人材は自宅から通える範囲で働くことが多く、香川では近隣の事業者間で取り合いになる事態も起きているという。

香川県内の介護事業者などで構成する医療介護環境協同組合(高松市)は、外国人技能実習生の受け入れを目的に14年に設立された。ミャンマーの人材送り出し機関と独自に関係を築いてきた。一定数の実習生を受け入れるためにも、組合に加盟していない事業者も含め、一緒に採用のために現地を訪れようと考えた。

ただ、実習生の受け入れは送り出し機関との間に現地仲介業者が入ることが多く、人が来ないなどのトラブルもある。県内事業者の不安を取り除き、参加を促せるかどうかが問題となり、組合の吉岡哲哉副理事長らはメインバンクの香川銀に相談を持ちかけた。

打診を受けた香川銀の冨野英和氏(現法人コンサルティング推進部部長代理)は、まだ組合に所属していなかった医療介護関連の取引先に声をかけ、ミャンマーの採用ツアーにつながった。現頭取の山田径男氏も同行して面接を担当。2回にわたる現地訪問で約40人を採用した。実習生は20年11月に来日、組合所属の介護事業者で働いている。

当初数社で立ち上がった組合には現在、香川県内の事業者を中心に19法人が参加する。金融機関が仲介した信用もあって人材不足に悩む事業者がまとまり、地域の課題解決に向けた仕組み作りが進んだ。

採用ツアーに参加した事業者や香川銀は、共同で実習生の面接を実施した(2019年、ミャンマーのヤンゴン)

香川銀がツアーを組み、採用面接まで担うのは「取引先の経営を支援し、存続してもらうことが銀行にとっても重要になってくる」(冨野氏)ためだ。香川県の生産年齢人口(15歳以上65歳未満)は21年1月時点で55万人だが、国立社会保障・人口問題研究所によると、40年には42万人と2割強も減る。働き手が減れば香川県の事業所数も減る懸念が強い。そのため自らが先頭に立って働き手を既存取引先に紹介し、存続してもらうことが将来にわたる継続的な資金需要につながっていくとの考えだ。

組合に所属する社会福祉法人、光寿会(高松市)の特別養護老人ホームでは、働き手の3分の1を技能実習生が占める。海外から優秀な人材を確保できるかどうかが、介護事業者の経営に直結する。支援の在り方は融資だけではない。

香川銀が取引先を集約したように、地方金融機関による人材紹介を政府が支援する新制度でも、地元企業とのつながりが地銀の強みになる。四国の地銀が相次いで参入しており、伊予銀行では1年で60件超が成約した。専門性の高い人材からエッセンシャルワーカーまで、地方における人材不足を解消するために地域金融が果たせる役割は大きい。

専任人材で顧客との関係づくり

香川銀は医療や介護関係の取引先が多いことを強みとしている。本店営業部には医療機関専門の担当者を配置し、2003年からは本部にも専任の担当者を置いた。
ミャンマーの採用ツアーを企画した冨野氏は10年近く医療介護関係に携わり、医療機関が介護分野に進出する際の市場調査や計画作成を支援してきた。支店が医療介護環境協同組合から打診を受けた際には、本部の冨野氏まで情報が届いた。事業者との長年のやりとりから、参加を希望しそうな企業に本部から直接声をかけた。
銀行人事は短期間で職場が変わるのが一般的だ。香川銀が特定分野の専門家を育成していることが、取引先の信用獲得にもつながっている。

日本経済新聞

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