(世界発2021)借金しないと実習に行けない ベトナム人、日本で失踪相次ぐ【朝日新聞2021年7月20日】

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日本で約2年間の失踪を経て4月に故郷の実家に戻った元技能実習生のチャン・バン・ソンさん=7月8日、チュオンザン村

ベトナム人技能実習生の失踪が相次いでいる。一因として指摘されるのは、来日するために彼らが背負う高額の借金だ。なぜ借金が必要なのか。それが実習生をどう苦しめるのか。現場で探った。(ハノイ=宋光祐)

■手数料100万円、返済に1年半

「日本に行ってもお金も、仕事に役立つ技術も手に入らなかった」。ベトナム北部タインホア省チュオンザン村。4月上旬に日本から両親の家に戻った元実習生のチャン・バン・ソンさん(33)は今、日本で暮らした5年間をこう振り返る。

2016年に技能実習生として来日し、岡山県内の建設会社で働き始めた。「日本なら毎月20万円稼げる」とハノイの送り出し機関に勤める近所の知人から聞き、3年間の滞在で300万円の貯金を目標にしていた。ベトナムにいた時は南部のホーチミンで広告看板の制作をしていたが、月給は3万5千円。「日本に行けば両親を助けて、自分の人生を変えられる」。そんな希望を抱いた。

ところが、現実は違うとすぐに思い知らされた。時給は890円で残業代が出ず、月給は手取りで10万円前後にしかならなかった。ベトナムの送り出し機関に支払った来日の手数料100万円のために背負った銀行からの借金をできる限り早く返済するつもりでいたが、結局、1年半かかった。そのまま働いても期待していたほどの貯金はできない。

送り出し機関の担当者に残業代の交渉などを頼んだが、我慢してがんばるように励まされるだけで何もしてくれなかった。「収入も少なく、仕事もつらすぎる。我慢できなかった」。2年が過ぎた頃、ベトナム人の同僚と一緒に失踪した。

新しい職場はすぐに見つかった。ホーチミン時代の友人が先に働いていた愛知県内の金属加工会社を紹介してくれた。「仕事は機械の前に立ってボタンを押すだけ」。それでも時給は千円で残業代も支払われた。できるだけ長く日本にいるつもりだったが、新型コロナウイルスの感染拡大で仕事がなくなり、今年3月に解雇された。手元に残っていた約30万円はベトナムへの帰国費用でなくなり、日本で稼いだお金はもう残っていない。

■日本側への謝礼・接待も一因

失踪した技能実習生のうち、ベトナム人が占める割合は17年から5割を超え、失踪は「ベトナム問題」になっている。国の認可法人「外国人技能実習機構」(OTIT)は今年6月、ベトナムの大手送り出し機関5社からの実習生の新規受け入れ停止を決めた。5社が日本に派遣した実習生の失踪が多かったためだ。

ベトナムでは反発が出ている。対象になったハノイのMHベトナム社の担当者(37)は「日本で不法就労で仕事を見つけるのが難しくないことが問題だ」と反論。「送り出し機関はいつも悪者にされるが、日本の受け入れ企業が十分な仕事を与えず、満足な給料を払わなければ我々にはどうしようもない」と訴える。

一方で、送り出し機関側の責任も指摘されている。実習生が借金をして支払う高額な手数料の問題だ。ベトナムでは法令で上限額3600ドル(約40万円)と定められているが、大幅に上回る金額の徴収が横行している。

「人材募集のためにかかった経費の原資はすべて実習生から回収する仕組みになっていた」。日本側の受け入れ停止措置の対象になった5社のうちの1社に16~17年にかけて勤めていた日本人男性は当時の様子を打ち明ける。

会社ではさまざまな名目で計100万円近くを実習生から徴収していた。社内では失踪者の報告が目立っていたが、会社側は改善策を取らず、利益のために派遣人数の拡大を最優先する経営を続けたという。

法外な手数料は日本側の問題だと指摘する声もある。15年にベトナム人のパートナーとハノイで送り出し機関を設立した松本伸彦さん(60)は「実習生の受け入れ窓口になる監理団体を中心に日本側がいろいろな要求をするせいで手数料が高額になっている」と話す。

ベトナムから日本の監理団体に実習生の受け入れを持ちかける営業電話をかけると、必ずと言っていいほど、ベトナムへの旅費や接待、受け入れ実習生の人数に応じて謝礼として違法なキックバックを要求されたという。「出せないと伝えると、その時点で交渉は断られた」

松本さんはその後、送り出し機関の経営を退いて日本に帰国。適正な受け入れ窓口になることを目指して千葉県内に監理団体を立ち上げた。不正を減らすためには、実習生の手数料を受け入れ企業が負担する必要があるとして、関係者らに働きかけを続けている。「経営者の考えが利益か人を育てることに向いているかで違いが出る。ベトナム側の意識を変えるには、まず日本が動くことが大切だ」と話す。

朝日新聞デジタル

 ベトナム人技能実習生の失踪が相次いでいる。一因として指摘されるのは、来日するために彼らが背負う高額の借金だ。なぜ借金が…