「過酷な生活に胸痛い」読者から寄付 「失踪村」その後【朝日新聞2021年6月4日】

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届いたお金をベトナム人の元技能実習生ブー・バン・ズンさん(左)に手渡すNPO法人「アジアの若者を守る会」代表の沼田恵嗣さん=2021年5月13日、埼玉県本庄市、沼田さん提供

日本に働きに来た多くのベトナム人技能実習生がなぜ逃げ出し、どうやって暮らしているのか。背景にどんな問題があるのか。多くの失踪者を取材し、紙面とデジタルで報じた記事「失踪村」に多くの反響をいただいた。「コロナ禍で帰国できないまま、追い詰められている元実習生たちに」などと35万円以上のお金も届いた。報告を兼ねて、読者の声を紹介したい。

記事で紹介したNPO法人「アジアの若者を守る会」には、現金入りの手紙などが届いた。

「日本でこんな事があるのかとびっくり致しました。何かしないと(いけないと)思いましたのでペンをとりました」

奈良県の女性は手紙にそうつづり、孫の成人式用に少しずつ積み立てているという15万円を同封した。

北海道の女性も「日本はなっていないと思います。ささやかですが、ベトナムの皆様にお渡しください」と10万円を同封した。「食糧を送りたい」「会に2万円の寄付をしたい」といった申し出もあったという。

「日本に来てこんな過酷な生活と思いをさせたことに胸が痛みます。本当に申し訳ないと日本人の一人として思います」と手紙で書き、記事のコピーとともに3万円を同封してきた千葉県の人もいる。

朝日新聞にも「ベトナムの方々に少しでもカンパしたい」と、手元にあったユーロやドルなど総額約3万8千円相当を送ってくれた人や、5千円を送ってくれた神奈川県の女性、切り取った記事と一緒に1万円を送ってくれた千葉県の男性がいた。

27日までに、合わせて7人から約35万円相当の支援が寄せられた。多かったのは、コロナの集団感染が起きたクルーズ船でも働き、記事で大きく採り上げたブー・バン・ズンさん(36)への支援だ。

渡してほしい相手が明記されていたものは支援団体などを通じて本人に渡し、それ以外は今後の支援活動に役立ててもらうため、朝日新聞から支援団体に寄付することにした。

ズンさんは受け取った一部をベトナムの家族に送り、残りは同じように行き場を失ったベトナム人たちを保護している埼玉県本庄市の「大恩寺」などに寄付したそうだ。改めて聞くと、「私が困っていた時にお米をもらったので、お礼をしたい」と話した。

今年1月に取材した時のズンさんは、未払い賃金を思ったほど取り戻せず、悲しみと無力感に打ちのめされていた。だが、日本人からの善意を受け取り、「とてもうれしい」と笑顔を見せた。自分が置かれた状況に共感してもらえたことがうれしかったのだという。

ただ、同じような目にあって苦しんでいる人が多くいることが頭から離れないようだ。「日本の会社の人、悪い人もいて、困っているベトナム人がいっぱい。どうぞよろしくお願いします」と頭を下げた。

記事を受け、日本で暮らすベトナム人らでつくる社団法人「在日ベトナム人協会」は、ズンさんにベトナム語でインタビューした。ズンさんは「私のような被害者が出ないように、悪い企業を取り締まって下さい」と日本とベトナムの両政府に訴えた。来日前の実習生向けに「日本に来る前にちゃんと企業を選んできて下さい」とも話した。

同協会は日本の実情をベトナム人に伝えようと、近く映像をユーチューブで配信する予定だ。少しでも問題の解決につなげ、被害者を減らしたいという。メンバーは「このままでは日本を嫌いになるベトナム人が増えてしまう。両国のためにならない」と心配する。

苦しんでいるベトナム人たちへの読者からの温かい気持ちには感謝したい。ズンさんの笑顔に少し救われる思いがした。ただ、記事で採り上げたズンさんたちだけが助かれば、この問題が解決するわけではない。今の日本には無数のズンさんがいる。

年に2回しか給料をもらえなかった。宿舎が劣悪で、台所の水道から真っ黒な水しか出なかった。寝ていた時に走り回るネズミに足をかまれた……。取材でそんな体験談を聞き、これが21世紀の日本で起きていることかと驚いた。日本を夢見た多くのベトナムの若者たちの気持ちを踏みにじるような現実が今も繰り返され、それを防ぐ仕組みは極めて貧弱だ。

技能実習が適正に行われているかを管理するため国が設けた「外国人技能実習機構」に相談しても、「そんなことで電話をしてくるなと叱られた」「解決してもらえなかった」と絶望する実習生も少なくない。言葉の壁もある。

朝日新聞に電話をくれた長野県の下諏訪国際交流協会長の川村脩子さん(79)は「記事を読み、心が締め付けられた。労働力不足で私たちが助けてもらっているのに、恥ずかしい」と話した。今後、支援団体に寄付したり、実習生が直面する問題を解決するためにできることを考えたりしたいという。

届いたお金をズンさんらに手渡した「アジアの若者を守る会」代表の沼田恵嗣さん(59)は、「一人でも多くの実習生が日本でいい思い出を持って帰ってほしい」と願う。

コンビニに並ぶ色鮮やかなお弁当、スーパーに並ぶカット野菜や加工済みの肉や魚、安く売られている靴下などの衣料品……。そうした商品の多くは外国人の労働で成り立っている。快適で便利な生活は、誰かの犠牲の上に成り立つべきものではないはずだ。ベトナム人だけでなく、日本で働く外国人も同じ社会で生きる人間として受け入れていきたい。そのためにはどうしたらよいのか、読者のみなさんと一緒に今後も考えていきたい。(平山亜理)

朝日新聞デジタル

 日本に働きに来た多くのベトナム人技能実習生がなぜ逃げ出し、どうやって暮らしているのか。背景にどんな問題があるのか。多く…