ベトナム人が慕う 夫婦の親心 延べ数百人の面倒見る【朝日新聞2021年4月30日】

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鈴木孝昌さん・里香さん夫妻。自宅の居間の棚にはベトナム人らと撮った写真が並ぶ==2021年3月28日午後4時36分、静岡県富士市今泉、六分一真史撮影

約6千人の外国人が暮らす静岡県富士市でベトナム人から「オトーサン」「オカーサン」と慕われる夫婦がいる。製紙会社の役員鈴木孝昌さん(52)と看護師の里香さん(52)。異国の地で働く若者たちの面倒を文字通り「親身になって」見ている。そんな2人の姿を見続けてきた長男の竣也さん(23)は先月、東京で在留ベトナム人を主題にした写真展「NEIGHBORS.(隣人たち)」を開いた。

里香さんのスマホには、市内に住むベトナム人からSNSのメッセージが次々と飛び込んでくる。

「熱があるので病院に行きたい」「ニキビの薬がなくなったので買いたい」。電気代の督促に「でんきのかみ これは何ですか」。求人票を添付して「このしごと いいですか」など――。チャット欄にはベトナム人の名前がずらりと並ぶ。これまでにやりとりしたのは「延べで数百人になるかも」と里香さん。

市内には、定住者や技能実習生ら約1200人のベトナム人が住む。国籍別ではブラジルに次いで多い。コロナ禍では、妊娠して母国で出産しようと考えていた女性が帰国便が飛ばずに帰れなくなり、里香さんは診察や保険加入の手配に駆け回った。ベトナム人の間でクラスターが起きた際は保健所との間で濃厚接触者の連絡を取り持った。

夫婦とベトナム人コミュニティーとのつながりは5年前、孝昌さんの工場でベトナム人が働き始めたのがきっかけだ。指示して「はい」と返事があっても、実際は通じていなかった。彼らが工場とアパートの間を往復しているだけでは、理解し合うのは難しい。「しっかり向き合おう」と自宅に招いたり、市国際交流ラウンジの日本語教室を紹介したりした。それから社外のベトナム人との付き合いも次第に広がっていった。日本文化を体験してもらおうと、里香さんが着物の着付けを、同居の母親が茶道を教える会も開いた。

ベトナム人のSNS連絡網をまとめる金型設計者のジャップさん(34)は「市内のベトナム人の半分は鈴木さんを知っている。何でも相談に乗ってくれるのでみんな感謝の気持ちを込めてオトーサン、オカーサンと呼んでいる」という。

孝昌さんは「ボランティアとか何かの活動をしている意識はない」。里香さんは「子どもに接する気持ち。自分の子育てで『こうしたらよかった』と心残りだったことも彼らにやってあげたい」と打ち明ける。

竣也さんは、対人関係が苦手で高校1年の時に学校に行けなくなった。両親の勧めでニュージーランドに留学。精神的にどん底だった時、ホームステイ先の一家が温かく受け入れてくれたことが救いになった。

当時、自分も英語ができなかった。言葉が不自由なベトナム人にとって、両親も同じような救いの存在なのだろうと感じた。専門学校で写真を学びながら、ベトナム人コミュニティーの写真を撮り続けた。今春の卒業を機に、東京のギャラリーで小さな写真展「NEIGHBORS.(隣人たち)」を開いた。タイトルには「外国人も同じ地域で生活する存在」という思いを込めた。床に置かれた写真パネルは、冬の地面の霜で固まったベトナム人の足跡。来場者にはその足跡に自分の足を重ねてもらう。「隣人」の存在を感じ、一歩、寄り添うことの大切さを感じ取ってほしかった。

技能実習生らをめぐっては、失踪や養豚場から豚が盗まれる事件などが報道され、悪いイメージを抱く人もいる。「孤立するか、手を差し伸べる人との出会いがあるか。まわりのちょっとしたサポートがあれば、社会問題の改善にもつながると思う」。写真展のメッセージは、両親の姿勢とも重なっているようだ。

写真展は今後、機会があれば故郷でも開きたいという。コロナ禍がおさまったらベトナムへ行って、彼らが出稼ぎにくる背景も撮ってみたいと考えている。(六分一真史)

朝日新聞デジタル

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