コロナ禍で悲惨さ増す、外国人留学生の暮らし【Wedge2021年4月16日】

日本に住む外国人が昨年、8年振りに減少したことが明らかになった。法務省出入国在留管理庁が3月31日に発表したデータによれば、2020年末時点で在留外国人は288万7116人と、1年前と比べ4万6021人減った。

その原因は、新型コロナウイルスの感染拡大だ。コロナ禍の影響で、在留外国人増加の要因となっていた「実習生」と「留学生」の新規入国が大幅に減った。結果、在留在国人全体も減少した。

とりわけ減少が目立つのが留学生だ。留学生は2019年末には34万5791人に達し、12年から2倍近く増えていた。それが1年間で一気に2割近く減り、28万901人まで落ち込んだ。

「留学生の減少は、日本のグローバル化にとって好ましくない」との主張をよく見かける。留学生を増やすため、政府が推進してきた「留学生30万人計画」でも、趣旨に「グローバル化」を掲げている。しかし、近年の留学生急増は、本当に日本の「グローバル化」に貢献したのだろうか。

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コロナ禍に収束の兆しが出れば、留学生の受け入れ緩和を求める声が、教育業界や産業界から強まるだろう。その前に、30万人計画とコロナ禍における留学生たちの実態について考えておきたい。

30万人計画が作成されたのは2008年、福田康夫政権下のことだった。当時12万人程度だった留学生を、20年までに30万人まで増やす目標が掲げられた。だが、留学生は思うように増えなかった。11年の東日本大震災で福島第一原発事故が起きると、留学生全体の6割を占めた中国人が日本から去り始めた。当時の中国人には出稼ぎ目的の留学生も多かったが、自国の経済発展で賃金が上昇し、日本で働くメリットが薄れたのだ。

そこで政府は、アジア新興国からの留学生受け入れに舵を切る。その象徴と言えるのが「ベトナム人留学生」だ。ベトナム出身の留学生は12年末には9000人に満たなかったが、6年後の18年までに8万人以上に急増した。こうして新興国から大量に留学生を受け入れ、30万人計画は2020年の目標を前に、いったん達成された。

ただし、アジア新興国出身者の多くには、留学ビザ取得に十分な経済力がない。留学ビザは、アルバイトなしで日本での生活が成り立つ外国人に限って発給されるのが原則だ。しかし、この原則を守っていれば留学生は増えず、30万人計画も達成が難しい。そのため政府は、経済力のない外国人にもビザを発給し続けた。カラクリはこうだ。

新興国の留学希望者には、ビザ申請時に親の年収や預金残高が記された証明書の提出を求められる。ビザ発給の基準となる金額は明らかにされていないが、それぞれ最低でも日本円で200万円程度は必要だ。新興国の庶民にはクリアが難しい。日本への「留学ブーム」が巻き起きたベトナムの場合、国民の多くを占める農民の所得は、せいぜい月2〜3万円に過ぎないのだ。

希望者は、年収や預金残高が改ざんされた書類を準備する。留学斡旋業者経由で、行政機関や銀行の担当者に賄賂を支払ってのことである。行政機関などが正式に発行した書類なので偽造ではない。ただ、数字だけが、捏造されている。捏造書類の発行など日本では起こり得ないが、新興国では賄賂を払えば当たり前のようにできてしまう。

こうして準備された書類は、斡旋業者から留学生が入学先となる日本語学校に送られた後、学校が入管当局へ提出する。そして入管と在外公館の審査を経て、ビザが発給される仕組みだ。

入管や在外公館、また日本語学校にしろ、書類の捏造には薄々気づいている。しかし、問題にすれば留学生は増えず、30万人計画の達成ができない。日本語学校の経営にも悪影響が出る。そのため、捏造に見て見ぬフリを決め込む。

一方、留学生たちは日本への留学費用を借金に頼る。その額は、日本語学校に支払う初年度の学費や寮費などで150万円前後にも上る。この借金を返済しつつ、翌年分の学費も貯めなければならない。

新興国出身の留学生には、仕送りがある者は少ない。逆に母国の家族へ、仕送りするため日本へやってくる。しかし、留学生に許される「週28時間以内」のアルバイトでは、母国への仕送りはおろか、借金を返し、学費を工面することすら不可能だ。だから彼らは、法定上限を超えて働くしかない。そんな留学生を低賃金の労働者として、都合よく利用してきたのが、30万人計画の実態なのである。

多額の借金を背負い来日し、法定上限を超えて働く留学生に、これまで筆者は数多く出会ってきた。しかし留学生政策や日本語教育分野の権威たちは、「出稼ぎ目的で、違法就労している留学生など、ごく一部に過ぎない」と口を揃える。本当に、一部の留学生に限った話なのだろうか。

留学生が留学生労働者になると2倍になる理由

留学生の就労実態を見るうえで、興味深い統計資料がある。厚生労働省が毎年発表している「『外国人雇用状況』の届出状況」だ。国内の外国人労働者数が在留資格別などに示されたデータで、大手紙も発表直後に決まって報じる。

このデータによれば、昨年10月末時点で、12万7512人のベトナム人留学生が「労働者」として働いている。一方、法務省出入国在留管理庁の「在留外国人統計」では、ベトナム人留学生は同年12月末時点で6万5653人に過ぎない。つまり、実際の数の1.94倍ものベトナム人留学生が、労働者として存在している。

2つのデータには、調査時期に2カ月の開きがある。とはいえ、その間、留学生を含め在日ベトナム人は、コロナ禍の影響でほとんど帰国できていない。にもかかわらず、なぜ実際の2倍近いベトナム人留学生が、日本で働いていることになっているのか。

厚労省のデータは、外国人を雇用した事業所がハローワークに届け出た数だ。1人の外国人がダブルワークしていれば労働者は「2人」、トリプルワークの場合は「3人」と数えられる。同データのベトナム人留学生が実数をはるかに上回るのは、1人平均「1.94」のアルバイトをしているからなのだ。確かに、私が取材してきた留学生たちも、当たり前のように2つ、3つのアルバイトをかけ持ちしていた。

もちろん、1 つのバイトが短時間の場合も考えられる。だが、留学生は通常、1つのアルバイトで「週28時間以内」の制限近く働く。従って複数のアルバイトをかけ持ちすれば、当然、法定上限を超えてしまうことになる。

ベトナム人に次いで、30万人計画のもと急増したのがネパール人留学生だ。ネパール人もまた、実際の留学生の1.91倍が仕事に就いている。ベトナム人と同様、1人の留学生が平均2つ近いアルバイトをしているのだ。ちなみに、中国人留学生は12万5328人に対し、就労者は7万9677人に過ぎない。アメリカ人留学生も1581人のうち、働いているのは464人だ。

裕福で、母国からの仕送りが見込める中国人やアメリカ人とは違い、ベトナムやネパール出身の留学生は、多くがアルバイトをかけ持ちし、何とか日本での生活を維持している。そのことは、厚労省のデータからも明らかだ。そんな留学生たちを今、コロナ禍が襲っている。

技能実習生よりも悲惨な留学生

筆者の取材先であるベトナム人留学生の1人が働く北関東の食品関連工場で、昨年暮れに新型コロナのクラスターが発生した。感染者は大半がアルバイトの留学生で、夜勤に向かう人材派遣会社の送迎バスなどで感染が広まった。格安弁当や惣菜などを製造する工場での夜勤は、出稼ぎ目的の留学生にとっては典型的なバイトの1つだ。

工場はしばらく操業を停止した後、再び稼働した。しかし、留学生たちは感染者以外も全員がバイトを失った。工場側が「留学生は感染リスクが高い」と判断し、解雇したようなのだ。

事実、感染リスクと隣り合わせの“密”な生活を送る留学生は多い。日本語学校の留学生寮では、1部屋に数人が詰め込んでいるケースがよくある。大手メディアは実習生に対する「人権侵害」を頻繁に報じるが、就労環境、住環境とも留学生よりずっとマシだ。実習生の場合、雇用主が用意する住居には「1部屋2人以下」しか住めないよう法律で定めてある。だが、留学生には規定がなく、タコ部屋状態での生活を強いられる。そして相場以上の家賃まで学校に徴収されることも多い。

民間のアパートに暮らす留学生たちも、節約のため、たいてい複数で部屋をシェアする。だからバイト先などで新型コロナに感染すると、寮やアパートで「家庭内感染」が広まりやすい。

新型コロナの影響で、仕事を失う留学生が増えている。バイトがなくなった途端、彼らの生活は行き詰まる。日本語学校の学費の支払いもできない。すると学校側から、退学処分を言い渡される。

学校としては、留学生に不法残留されては困る。不法残留者を多く出せば、入管当局から目をつけられ、新規の留学生受け入れが不利となるからだ。それを避けるため、学校は学費の支払いなどで問題のある留学生は、母国へ送り返そうとする。

そんな事情を留学生もわかっているので、学費が払えないと悟った時点で学校から逃げる。借金を抱えたまま帰国すれば、家族は丸ごと破産だ。だから不法残留しても、日本で働き続けようとする。留学ビザで来日後、不法残留している外国人は、昨年末時点で5000人を超えている。バイトを失い、困窮する留学生が急増している現状からして、その数は今後増えていく可能性が高い。追い込まれた末、犯罪に手を染める者も現れるかもしれない。

だが、彼らだけを責めることは酷である。学費稼ぎのため、また低賃金の労働者として、留学生を利用してきた日本側の責任は大きい、

やがてコロナ禍は収束する。その前に、政府には「留学生30万人計画」の是非を総括してもらいたい。本来の留学ビザ発給の基準に沿い、出稼ぎ目的で、多額の借金を背負った外国人までも「留学生」として受け入れてはならない。労働力を欲するならば、正直に「労働者」として迎え入れるべきである。

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