(フォーラム)差別をなくしたい:2 現場から【朝日新聞2021年4月4日】

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少子高齢化の進む日本は多くの外国人労働者を受け入れています。ですが政府は表向き移民政策であるとは認めず、市井の日本人から向けられる差別的な視線を意識する在日外国人が少なくありません。さらにコロナ禍では、日本人が日本人に差別の目を向ける事例も浮き彫りになりました。記者たちがそれぞれの現場から報告します。

■家探し「外国人はダメ」 地域のトラブル「日本社会の問題では」

日本社会で外国人が最初に感じる差別は「住まい」と言われます。実態はどうなのか、全国5位の19万6千人(2020年6月、出入国在留管理庁統計)の外国人が暮らす埼玉県内を歩いてみました。

「『外国人はダメ』といくつもの不動産会社で門前払いされた」。バングラデシュ人で川口市に住むハサン・エモディ・アブルさん(24)は、今の家を見つけるのに半年かかりました。「日本の文化やマナーが分からない外国人がいるからでしょう。でも、国籍でひとくくりに拒否されるのはつらいしおかしい」と言います。仲介した不動産会社クレオン(川口市)の池水秀一副社長(53)は「『ゴミ出しのルールを守らない』といったトラブルを懸念して外国人を拒む大家さんはまだまだいる」。

一方、「理解のある大家さん」がいるという話も。八潮市に住むパキスタン人のザヒット・ジャベイドさん(55)は「彼に頼めば家探しは余裕だよ」と言います。その大家さん、同市の昼間一夫さん(79)は現在、所有物件の9割にあたる約150室を外国人に賃貸中。約20年前、築年数が経った空室が増えたのがきっかけでした。「私は合理主義者。国籍で選別していては事業が成り立たない時代になった」

さいたま市南区のBridge Lifeは、「外国人入居インフラ」の整備そのものを事業理念に、物件探しから契約までをサポートし、入居後も8言語対応のコールセンターで24時間相談にのっています。

設立は08年。「外国人労働者が増え続ける日本で、みんなが避けるからこそビジネスチャンスだと思った」と取締役管理本部長の清水一生さん(46)。利用者は増え続けているといいます。

清水さんは「高齢化が進む社会で、入居差別は誰にとっても他人事ではありません」と指摘します。住民の半数以上が外国人の芝園団地(川口市)でも、自治会事務局長の岡崎広樹さん(39)が「安易に『日本人/外国人』の対立構造ととらえると本質を見誤る」と見ています。「マナー違反が厄介なトラブルになるのは気軽に注意し教え合える関係を地域で作れていないから。『外国人だから』ではない。日本人同士ですらできていないのだから、相手が外国人ならもっと難しい。日本社会の問題そのものではないでしょうか」(黒田早織)

■「笑い顔、初めて怖いと思った」 ヘイトデモ見た多文化交流施設職員

在日コリアンの多い川崎市川崎区の桜本地区に「川崎市ふれあい館」という多文化交流施設があります。地域に住む外国人と日本人、子どもからお年寄りまでが集い、互いの文化や言語を学び合う場です。3月3日の夜、中学生のための「学習サポート」の様子を取材しました。

中国、フィリピンなどにルーツのある十数人が机に向かっています。勉強をみるのは、ここで学んだ外国出身の大学生たち。中国出身の生徒の宿題をみていた大学1年の林寒瑩(リンハンイン)さん(21)は15歳の時、父の仕事で中国から日本に。日本語学校でゼロから言葉を学び、ふれあい館で受験勉強をして17歳で高校に入学しました。「私もここで救われた子。不安な気持ちがわかる」

横では高校に受かった生徒らの入学書類の作成を、ボランティアの高校教師と同館職員の黄浩貞(ファンホジョン)さん(29)が手伝います。黄さんが1人の母親に電話し「あした銀行の通帳作ってもらってもいいですか?」。母親はフィリピン出身で日本語の読み書きがまだ苦手なのだそうです。

その「ふれあい館」から2キロ余り。JR川崎駅前では8年ほど前から、在日外国人を攻撃する街頭演説が頻発しています。2019年に川崎市がヘイトスピーチに刑事罰を科す差別根絶条例を作りましたが、なくなりません。2月の週末には、日の丸を掲げた男性ら十数人が街宣活動をし、「条例は憲法違反」「差別なんかしていないが嫌悪・軽蔑はするぞ!!」などと書かれたプラカードを掲げていました。これに抗議する人たちの集団が「レイシスト(人種差別主義者)帰れ」と声を上げ、大勢の警察官が集まっていました。

韓国からの留学生だった黄さんは16年1月、ずっと避けていたこの光景に初めて向き合いました。ボランティアに通っていた同館への就職を決め、「この目で見なければ」と決意。ヘイトデモが出発する市内の公園に行き、阻止しようとする市民の抗議行動に加わりました。

激しい誹謗(ひぼう)中傷に「自分が遊んでいる子たちがこれを見たら?」と、胸が苦しくなったそうです。同年6月には、デモの男性ににやにやしながらスマホで動画を撮られ、「初めて人間の笑い顔を『怖い』と思いました」と振り返りました。

ふれあい館の上司は、黄さんに「幸せな人生を送れていない人が、怒りの矛先を弱い方に向ける」と言ったそうです。日本人と外国人が認め合って暮らす社会を作るのは簡単ではない。「だからせめて」と黄さんは言います。「私が関わった子たちには自分が外国人であることを否定せずに生きていってほしい。私はそのお手伝いをしたい」(宮崎亮)

■外国人同士、被害も支援も 困窮する技能実習生ら

日本社会を支える外国の人たちと私たちはどこまで対等に向き合えているでしょうか。それは外国人同士の関係でも問われています。

宮城県の建設会社で技能実習をしていたベトナム人のソン・フィ・ロンさん(25)は、実習先の建設会社で8階建ての建物の作業をした時、日本人には支給された安全帯が実習生には配られず、「僕たちにもください」と頼みました。でも、返ってきた言葉は「値段が高いから、自分たちで買えば」。外国人の命は、日本人に比べて軽いと感じる体験だったと言います。

こうした差別は日本人から外国人に対して起きるとは限りません。NPO法人「アジアの若者を守る会」の元には、ベトナム人の元実習生から、「未払い賃金を取り戻したい」「ブローカーにだまされた」といった相談が寄せられます。ベトナム出身の塩田ユンさん(39)が話を聞いてみると、だましているのが数十年前に来日した「オールドカマー」のブラジル人で、被害者は最近来て「失踪」したベトナム人というケースが見受けられるそうです。

また、塩田さんは、同じ国籍でも在留資格による差別を感じるとも言います。永住権を持つベトナム人が、失踪したベトナム人を見下すのです。「同じベトナム人のコミュニティーの中でも、ヒエラルキーがあります」

ただ、希望もあります。埼玉県上里町で農業や派遣会社を営む日系ブラジル人の斎藤俊男さん(53)は3月、近くの本庄市の大恩寺に米やネギを差し入れました。ベトナムに帰れず困窮している元実習生が大勢いると聞いたからです。仲間の農家と、出荷しない野菜を元実習生たちに収穫してもらい、そのまま軽トラック3台分を寺に寄付しました。

斎藤さんは「我々日系ブラジル人は、気に入らなければ別のところに行ける。でも、実習生は縛られて、奴隷扱い。だから失踪する」と考えます。斎藤さんは「悪いのは日本政府」と。外国人に頼っているのに、様々な制限をつけ、縛り付けている。実習生たち外国人がもっと人間らしく暮らせれば、日本の将来にも良い、と考えています。(平山亜理)

■コロナ禍、看護師が感じた視線

社会の役に立っていると思っていた自分の仕事が、差別される理由に逆転した。埼玉県に住む女性看護師はそんな体験に悩みました。

昨年4月、取得した助産師の資格を生かそうと、都内の総合病院に職場を変えました。ちょうど新型コロナウイルスの感染が拡大した時期。勤務先では、高度な看護の経験を買われ、コロナ病棟の担当を頼まれました。「誰にでもできることではないし病院も困っている。引き受けることにしました」

病棟では緊張の連続、帰宅すれば家族のリスクが気にかかる。ミスがあってはならないと、約1時間の電車通勤の間は、関係する医学書を開きました。そこで予想しなかった体験をしたと言います。

「私の前に立っていた人が『医療関係者じゃない?』『コロナかもしれない』とささやくのが聞こえました。私をにらみつける人もいました。別の車両へ移動したり、席を変えたり。汚い存在として見られることや、そう思っているという態度を取られることが、こういう体験だとはそれまで知りませんでした」

「私は今まで通りの私で、看護の仕事はコロナ禍にある社会を支えている。それなのに、人々に不安が広がった結果、いつの間にか自分が差別される立場になっていた。ショックでした」

ささやきや視線が気になると、ますます敏感に。担当した患者から「飲み会で感染したようだ」と聞いても感情を抑えられたのが、親しい友人が飲み会で集まったと聞くといらだちを覚える。その一方で「気にしすぎじゃないか」と言う同僚も。差別って、感じ方の問題なのか。そんな迷いも生まれました。

コロナ禍が収束すれば、医療関係者に差別的な視線や言葉を向ける人はいなくなる、と予想します。「でも、自分が差別されたという体験、感情は消えないと思う」。4月からは後輩の看護師を育てる教育の仕事に就くそうです。「私が体験した現実は伝えていきたい」と話しています。(忠鉢信一)

◇大学時代、仲の良い中国人の友達は学校から電車で30分以上かかる所に住んでいました。「なぜ遠くに」と聞くと、「外国人が家を借りられる場所は限られているから」。取材中に彼女のことを何度も思い出しました。

入居拒否は人権問題です。一方で、どうしたらなくなるかを考えながら地域の現場を取材してみると、実際には貸し手と借り手双方の利益になる合理的な考え方や仕組みが、解決につながっていました。「誰もが生きやすい社会」へのヒントが、ここにある気がします。(黒田早織)

◇取材の帰り、中国から来てまだ1年半という中3男子(17)とバスで一緒に。スマホの翻訳機能を使って話してくれました。耳にピアス。少しやんちゃ風な彼の、画面に浮かんだ文字は「孤独」。日本で働く両親とは12年ぶりの同居で会話はない。夕食は1人でカップ麺、と。

6年前に大阪で取材した中国出身の女性が頭をよぎりました。その人は高校で良き師に出会って大学へ進み、就職。彼も良い出会いをと願いつつ、でもなぜ偶然に頼らねばならないのかとの思いがぬぐえません。誰もが安心して日本で暮らせる仕組みを、政府が用意すべきです。(宮崎亮)

◇日本に暮らす外国人労働者も、国籍や在留資格によって、重層化していると感じます。技能実習生は、家族の帯同が認められず、子どもがいても連れてこられず、祖国に残したままになります。色々な形で追い詰められ、失踪する人もいます。それに比べ、日系ブラジル人たちは、家族を呼び寄せることも、日本で結婚して子どもが出来て一緒に暮らすこともできます。外国人も人間らしい安定した暮らしができれば、日本の社会にメリットがあると思います。外国人が差別を感じずに、自分も社会の一員と感じられる日本になることを願います。(平山亜理)

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 少子高齢化の進む日本は多くの外国人労働者を受け入れています。ですが政府は表向き移民政策であるとは認めず、市井の日本人か…