東北地方の外国人技能実習生たちと地元の工場が成し得たリアルな交流【DIAMOND online2021年2月16日】

ダイヤモンド・オンライン

コロナ禍は、日本で暮らし働く外国人(在留外国人)にも大きな影響を与え、40万人以上が在留する技能実習生については、ネガティブな報道も目立っている。いま、技能実習生たちはどういう状況に置かれ、仕事(実習)にどのように向き合っているのか? 前稿「コロナ禍の「外国人技能実習生」の実態、フィリピン人実習生の悲しみと喜び」に続き、「オリイジン2020」の寄稿者であり、監理団体で技能実習生と日々コンタクトを続ける玉腰辰己さんに“現在進行形”を聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「外国人労働者との付き合い方が、これからの企業の生命線になる理由」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

技能実習生たちと日本人の「国際交流」の先にあるもの

前稿で触れたとおり、外国人技能実習制度*1 は、先進国としての日本が、国際社会の調和のために、開発途上国の経済発展を担う「人づくり」を目的としている。労働力不足の解消のためではなく、あくまでも「国際貢献」の位置づけだが、「国際関係論」で博士号を持つ玉腰さんの目線から見た「技能実習制度」はどのようなものか。

*1 厚生労働省「外国人技能実習制度について」

玉腰 技能実習制度は、いまもっとも注視が必要な「国際交流」のひとつだと思います。

どういうことか。ちょっと俯瞰的な、大枠なところからお話しします。

まず、一般的に「国際関係」と思われているものは、次の四つに分けられます。

1. 政府の外交関係(例:日本の首相と米国大統領、日本の外務省と中国の外交部)
2. 国際機関の協力関係(例:国連、WHO、IMF)
3. 一国の政府が他国の国民に宣伝を展開する「広報外交」(例:国際交流基金、孔子学院、ブリティッシュ・カウンシル)
4. 民間関係

1から3までは、外務省や国連で働くわけではないわたしたちにとっては、「マスコミでは見るけれども自分には力の及ぼしにくい」――いってみれば、普通の人には縁遠い世界です。

しかし、四つ目の「民間関係」は、わたしたち自身が当事者になりえます。グローバル化の進んだ世界では、たとえその片隅であっても、知らず知らずのうちに関わっていたりするところです。

「民間関係」には、さまざまな交流が含まれます。ビジネスの交流、大学など知的分野の交流、ポップカルチャーでつながる大衆文化交流、インバウンドの旅行者への“おもてなし”、地域に住む外国人との交流(いわゆる「内なる国際化」)などなど、さまざまです。

わたしたちと技能実習生や外国人留学生とのつきあいも「交流」にあたります。

技能実習生の大半は、人手不足に悩む中小零細企業に入ってきます。

実習生を受け入れる日本側の人たちは、大学で国際交流を学んだとか、外国語や外国文化を専攻したとか、留学を経験したという人は稀(まれ)で、異文化間の媒介役のトレーニングを受けたり、経験を積んだりした人もほとんどいません。そこが大学などに在籍する外国人留学生の環境とは決定的に異なります。実習生を迎え入れた日に初めて外国人と接し、心の準備もないまま、いきなり素のままで始まる「国際交流」なのです。

そのように始まる「国際交流」の数年後、実習生たちが母国に帰ってからのことを一度想像してみるといいと思います。母国に帰って、周囲に「日本はどうだった?」と聞かれた彼ら彼女たちは、素のままの本当の日本の印象をどのように答えるでしょう。

もし、日本人が技能実習生や留学生を冷遇していたら、その先にあるのは、日本に対する国際的な草の根の悪評です。もし、笑顔で接し合える関係を築けていたら、彼ら彼女たちはきっと「日本は良い。日本人はやさしかった」と広めてくれるでしょう。その先にあるのは、新たな、次の世代の良好な関係でしょう。

玉腰辰己 Tatsumi Tamakoshi

1966年愛知県生まれ。日本大学芸術学部卒業。西武百貨店、ギャガ・コミュニケーションズ、上海・台北・シンガポール留学、日本語教師、笹川平和財団研究員、聖心女子大学非常勤講師などを経て、2019年から岩手・盛岡に移住し、外国人技能実習制度の監理団体で実習生受入企業の監査を担当している。博士(国際関係論、早稲田大学)。共著に『日中関係史 1972-2012 III 社会・文化』(東京大学出版会)、『証言 日中映画興亡史』(蒼蒼社)がある。国際関係でも政府間関係より社会間関係に関心があり、外国人労働者とこれからの日本社会のあり方を探求している。

会社ぐるみでどこか「おもしろがっている」ことの価値

玉腰 技能実習制度で実習生が日本で過ごす期間は3年から5年です。彼ら彼女たちの長い人生の中で、たった3年から5年――この短い期間に体験した日本の印象を、その後の長い人生で多くの人に語る。それが今後、累計数十万人以上になり、百万人を超えて、さらに増えていくでしょう。その影響規模は国際交流基金*2 が展開する「広報外交」に勝るようにも思えます。

つまり、グローバル化が進んだいまでは、国際関係の中でも四つ目の「民間関係」の交流のボリュームが大きく、もたらす影響が極めて大きいということです。

 先ほど挙げた1から3は国益の増進を目的に活動が行われますが、この四つ目の「民間関係」はそれにとらわれません。多分、大切なことは、お互いに楽しくつきあえるかどうかでしょう。最終的なアウトプットとして望まれるのは、「笑顔」ではないでしょうか。

外国人と一緒に働きながら笑顔が生まれている会社はたくさんあります。その共通点として気づくのは、みんなが会社ぐるみでどこか「おもしろがっている」ということです。

遠い国から来た、異なる生活習慣を持った人たちと日々働くのをおもしろがっている。カタコトの日本語で何を言おうとしているのかを察しながら、それをおもしろがっている。日本の食べ物を食べさせてみて、おもしろがっている。交換日記で日本語をチェックしながら、おもしろがっている。外国人がこたつを初めて使って喜ぶのを見て、おもしろがっている。一緒にバスケットボールや釣りやカラオケを楽しんで、おもしろがっている。

おもしろがっているといっても、決して嘲笑しているという意味ではありません。一緒に遊んでいる、新鮮な展開を微笑(ほほえ)ましく見て楽しんでいるというような感じです。

昔、たしか、関東地方のテレビ局だったと思うのですが、「違うから楽しい。同じだからうれしい」というようなキャッチフレーズがありました。異文化交流の要諦はこれに尽きるでしょう。それが傍目から見れば「おもしろがっている」ということでしょう。

▲[外国人技能実習機構]のホームページでは、英語・中国語・ベトナム語・タガログ語・インドネシア語・タイ語・カンボジア語・ミャンマー語・モンゴル語の外国語9言語で情報を案内している。
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技能実習制度というのは、1990年代以降、高齢化や人口減少が進み、人手不足が深刻化していくなかで、しかしながら労働移民は受け入れないという建前は表向き堅持しつつ、外国人労働者を引き入れるのに利用されてきた制度だと、わたしは思っています。平成の間に新自由主義化が推し進められ、雇用の非正規化が進み、社会保障費の増額、消費税の増税、低所得者層の所得低下が進み、日本人で引き受け手がなくなった最低賃金職種を外国人でまかなうものなのかもしれません。この制度で外国人受け入れ*3 が増加している背景と、制度の適否そのものの検討は重ねられるべきでしょう。

ただ、それはそれとして、この制度ですでに多くの外国人を呼び込み、共生が始まっている事実は変えられません。多くの現場で、外国人とともに道路を作ったり、被災地を復旧したり、老人を介護したり、畑を作るというチームワークが試みられています。国籍や生い立ちを超えて、仕事で一緒に汗をかいている。もう、外国人の人手なしにはさまざまな業種がやっていけなくなっている。そういう現実が定着し、進行しています。それが技能実習制度なのでしょう。

この、すでに「走っている制度」をどう改善していくのか。特定技能に移行することで何をどう解決していくのか。外国人と働く現場にはどういった工夫が必要なのか。わたしたちの認識はどう変えていくのがよいのか。技能実習制度という「国際交流」の場はさらに注視が必要だと思います。

*2 独立行政法人国際交流基金(The Japan Foundation)は、「総合的に国際文化交流を実施する日本で唯一の専門機関」とホームページに明示されている。
*3 技能実習生は41万972人(令和元年末現在・法務省統計)。同じ木令和元年末現在における、在留外国人の中長期在留者数は262万636人、特別永住者数は31万2501人で、これらを合わせた在留外国人数は293万3137人となり,前年末(273万1093人)に比べ,20万2044人(7.4%)増加し、過去最高となっている。(出入国在留管理庁「令和元年末現在における在留外国人数について」より)

カタコト英語より、「やさしい日本語」での意思疎通

外国人との交流には“言語の壁”が否応なく存在する。在留外国人の多い神奈川県横浜市の調査*4 などでも、外国人が回答した「困っていること・心配なこと」として、「日本語の不自由さ」が1位になっている。「話す・聞く」はある程度出来ても、「読む・書く」の習得に苦労している外国人は多く、現在、法務省・出入国管理庁といった行政機関は「やさしい日本語」*5 の普及に努めているが……

*4 令和元年度 横浜市外国人意識調査 より
*5 文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」

玉腰 国が進める「やさしい日本語」とはちょっと違いますが、わたしは以前、日本語学校の非常勤講師をしていたことがあり、初級を担当することが多かったため、教室では初学者でもわかる“やさしい日本語”を話していました。

仮定の「〜すると」「〜たら」「〜ならば」などは一切省き、時制も現在だけにして、「〜して」のように「て」で文節をつなぐこともしない、超シンプルな日本語です。

在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン

在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン

休み時間になると、そういう先生たちがそのままのモードで職員室に集まってきて、「わたし、おなか、すきます。コンビニ、行きます。あなたも行きます。いいですか?」みたいな、へんな日本語が真顔で飛び交っていて噴き出したことがありました。その、異様にシンプルな日本語で話す技能は、現在のわたしの仕事の中でも生きています。

いま、日本に40万人以上いる技能実習生たちは、日本語レベルでいえば、N5からN1という5段階のステップ*6 のうち、最初のN5やN4レベルの人たちです。ですが、難しい語彙や構文を使わずに話すと意外に通じて楽しいものです。

もし、自分が英語を多少話せるからといって、こちらから英語で話してしまうと、(相手の外国人が)誰に対しても英語で話せばいいんだと思ってややこしくなることがありますし、せっかく努力して学習してきた日本語を要らないものと思わせてもいけません。

そもそも、外国人の人手を必要としている日本の職場は、「学校英語」で嫌な思いをさせられてきた方たちが多いと思っておいたほうがいいような気がします。そういう職場でカタコトの英語をはびこらせるくらいなら、いっそ、異様にシンプルでへんな日本語のほうが共通言語としてふさわしいでしょう。

それに、最優先すべきは職場での安全です。(建設現場などで)危険が迫ったときにとっさに通じるよう日本語を耳に定着させることが安全のために重要です。その意味でいえば、東北地方のわたしの職場周りでは、現場で使われている方言をまず聞いて分かるようにするほうが、教科書の標準語よりも優先だと思います。

もちろん、込み入った内容になったとき、たとえば雇用条件の変更や健康診断など、あるいは、悩みを聞く場面のときは、英語や、実習生の母語を使う必要があります。そういうときは監理団体職員に頼めばよいでしょう。それ以外の、日常的な場面では、どんどん「やさしい日本語」で話しかけるのが良いと、わたしは思います。

*6 日本語能力試験 N1からN5:認定の目安 「日本語能力試験にはN1、N2、N3、N4、N5の5つのレベルがあります。いちばんやさしいレベルがN5で、いちばんむずかしいレベルがN1です」(日本語能力試験ホームページより)

町中のちょっとした人気者になった技能実習生たち

さまざまな属性の人たちがそれぞれの価値観や経験値の中で暮らすダイバーシティ社会。「多文化共生社会を目指す」と言葉で謳(うた)うのはたやすいが、「外国人は…」「地方の町は…」「日本の会社組織は…」といったアンコンシャスバイアスが相互理解を阻み、共生のハードルを上げてしまう傾向もある。技能実習生と会社組織、日本人と外国人という関係性において「共に生きる成功例」を玉腰さんに聞く。

玉腰 いろいろありますが、たとえばひとつ、岩手県花巻市の東和町にある工場のケースが良い例だと思います。

その会社は、社長と従業員の計6人の小さな鉄工所でした。ある日突然、主力のベテラン工員ふたりが辞表を出したのです。ちょうど、先代社長が亡くなったばかりで、奥様が会社を引き継がれていました。しかし、新しい人手を入れられるめどが立たず、いったんは廃業を考えていました。

そこに、「外国人実習生を受け入れてはどうか?」という話が持ちかけられ、意を決してフィリピンまで採用面接に行き、フィリピン人ふたりを招き入れることにしたのです。

それが、実習生のOさんとJさんでした。

ふたりとも男性で、Oさんは31歳で、「稼いで、おばあちゃんのために家を建ててあげたい」という理由で日本に来ました。Jさんは28歳で、幼い娘さんが母国にふたりいて、その教育費を稼ぎたくて日本に来ました。

働いてみると、ふたりともまじめな性格で、実直な仕事ぶりから、残ったふたりの日本人工員ともすぐに良い関係を築きました。社長(先代社長の奥様)一家も何かと生活の心配りをしたことから、会社には最初から家族的な関係ができていきました。

OさんもJさんも口数の少ないおとなしいタイプです。ですが、とにかく愛想がよい。朝夕の挨拶もきちんとする。会社内だけでなく、出入りしている取引先の人たちにも絶えず笑顔で接する。小さな町なので地域のスーパーで仕事のつきあいの人たちともよく顔を合わせるのですが、必ず覚えていて、彼らのほうから笑顔で挨拶する。冬は雪の多い地域ですが、隣に住むひとり暮らしの高齢の女性の分まで雪かきをする。

そもそも、ふたりが勤める会社の先代社長の人望が厚かったこともあり、「あそこの会社に外国人がふたり来たんだってね」と、町の人の注目を集めていました。そこに彼らの良い評判が広まり、町の人が何かと世話を焼くようになりました。

実習生は職場と宿舎の往復だけになりがちなのですが、休日に海まで釣りに連れて行ってくれる人が出てくる。冬に寒くなると、「これ、あの子たちに」と古着が集まる。ときどき、近所のカラオケ店は、彼らにひとり1000円で飲み放題・歌い放題をさせてくれる。技能実習生には1年目と3年目に試験が課されていますが、合格発表の日まで「試験どうだった?」と声をかけてくれる。合格すると、地元の銀行の方たちがお祝いの会まで催してくれる――高齢化し、若年人口が減り、にぎわいをなくしつつあった町で、OさんとJさんはちょっとした人気者になったといっていいかもしれません。

決して派手で社交的な性格ではなく、むしろ、おとなしく実直なふたりなのに、その誠実さが地域に溶け込む要因だったように思えます。

地域に根ざした会社が延命していくためには…

玉腰 そんなOさんたちが日本に来て1年ほどたったときのことです。会社の仕事が繁忙を極め、納期に対応するために、社長はOさんにいつもより高度な作業を任せることにしました。溶接の仕上げにあたる工程で、丁寧さが要求される仕事でした。

社長の指導のもとで、Oさんは練習に練習を重ねました。何度もダメ出しを受けながら、徐々に自分でコツをつかみ、最後にはきれいに仕上げられるようになりました。

納品の際、厳しい品質チェックが行われ、関係者のみんなが固唾(かたず)をのんで待ったところ、結果は無事合格でした。Oさん本人はもちろん、社長も先輩社員もみんなが達成感を感じた一瞬でした。

しかも、納入先のベテラン技術者には、「普通はもっと楽な姿勢で作業しないとあのような均質な溶接にならないのだが、彼は筋力と集中力で作り出している。日本人のわたしたちにはとても真似(まね)できない」と驚嘆されたのです。社長が日頃からOさんの仕事を見守り、一段高い仕事を与えられると信頼し、Oさんがその期待に応えようと力を振り絞った結果でした。

ちなみに、Oさんの試行錯誤を傍で心配しながらずっと凝視していたJさんも、Oさんの技能を見て覚え、同じ作業ができるようになったといいますから、連帯感のあるチームというのはすごいものです。

社長の口癖は、かねがね、「彼らが母国に戻ってから、日本は良かったと思い出してほしい」でした。わたしは、社長の思いはきっと叶うような気がしています。

この会社などは、実習生が地域に溶け込み、日本的で丁寧な職人仕事を身に付けてスキルアップしており、外国人実習制度の成功事例といえると思います。

しかし、こうしたエピソードをお話しすると、「低賃金の外国人を入れなければつぶれてしまうような生産性の低い会社はつぶれてしまったほうがよい」「競争力のないゾンビ企業の延命に外国人実習制度が加担している」というような、よく目にする批判がここでも聞こえてきそうな気がします。なので、もう一言、付け加えさせてください。

かつて1990年代、賃金の安い中国に工場を移転させたために、日本の産業界が空洞化し、地方の消費が低迷し、商店街がシャッター街となり、地方がうらぶれました。あの過ちは繰り返してはいけないと思います。地域に根ざした会社が延命できるならば、延命の手を尽くすべきではないでしょうか。そのために、ハローワークに求人を出して日本人が来ないのなら、外国人で来てくれる人がいたら来ていただき、少しでもにぎわいを作り出す努力を地方はし続けるべきではないでしょうか。仕事の火は一度消えたら取り返しがつきません。何とかつなげていこうとする努力こそ、称賛されるべきだと思うのです。

例にあげた鉄工所では、まさに仕事の火を消さなかった。その意味でも、この会社は、成功例だといえるでしょう。

※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「外国人労働者との付き合い方が、これからの企業の生命線になる理由」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

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コロナ禍は、日本で暮らし働く外国人(在留外国人)にも大きな影響を与えている。40万人以上が在留する技能実習生については、…