コロナ禍の「外国人技能実習生」の実態、フィリピン人実習生の悲しみと喜び【DIAMOND online2021年2月9日】

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「日本で働いていて良かった」という考えもあった

厚生労働省の公表数字によれば、新型コロナウイルス感染症の拡大で仕事(=実習先)を失った技能実習生は数多く、出入国在留管理庁は、実習が継続困難となった技能実習生への特別措置*3 を図るなど、民間企業の雇用継続への支援と啓発を行っている*4 。雇用がたとえ継続されても、休暇利用で自国に戻れないことは、留学生や技能実習生をはじめとした在留外国人にはつきまとう悩みだ。

*3 新型コロナウイルス感染症の影響により実習が継続困難となった技能実習生等に対する雇用維持支援
*4 PDF「雇用調整助成金を活用して外国人 技能実習生の雇用維持に努めて下さい」

玉腰 自分のことに置き換えて考えていただくと分かりやすいと思いますが、もし海外で働いていて、楽しみにしていた年に一度の帰国もままならず、外に遊びにも行けず、来るはずだった家族も来れなくなったら、それはかなり(メンタルに)こたえるでしょう。技能実習生たちにとっては、そういう寂しい一年だったと思います。

ただ、帰れないことで鬱屈ばかりしていたかというと、そうでもなかった面もあります。コロナのときだからこそ日本で働けて良かったという面もあったからです。

幸いにして、わたしたちのいる東北地方は東京などにくらべて感染拡大が緩慢で、そもそも、人が「密」になることが少ないので比較的「安全」だと思われたようです。仕事の減少も比較的小さく済んでいました。コロナの影響で自宅待機になった分も雇用調整助成金で埋め合わせられましたし、6月には特別定額給付金10万円も支給されました*5 。それも、人口の小さな市町村では大都市よりも支給が迅速だったので、申請書を書いてわりとすぐに支給があって、手軽に公的保護にあずかれた感触があったのではないでしょうか。

*5 特別定額給付金の給付対象者は、基準日(2020年4月27日)に住民基本台帳に記録されていた者であり、その条件を満たす技能実習生は給付対象となった。

一方で、(技能実習生たちの母国である)フィリピンは感染がひどく、経済活動も滞っていて、夏頃に帰国した技能実習生の先輩たちが自国で「仕事がない」という情報がSNSなどで入ってきて、「いま帰っても仕事がない。もうしばらく日本にいるほうが得策だ」という考えが実習生たちの間に広まったようです。

それで、3年の「技能実習」が終わって本来なら帰国するはずだった人たちも、急きょ、多くの人が帰国を2年延期して(技能実習3号*6 に延長して)日本にとどまりました。

*6 技能実習3号は、3年間の実習期間(1年目が技能実習1号、2・3年目が技能実習2号)を終えた技能実習生が最長2年間延長できる在留資格で、法務省の統計数字では、コロナ禍の影響もあり、取得者が増えている。

(2020年の)秋に世界的に感染がいっそう拡大し、母国で外出制限が出たり、家族が失業したり、親類や帰国した仲間に感染者が出始めると、「安全な日本で働ける自分たちはラッキーだ」「母国で家族が収入を失っている分、日本にいる自分たちこそが家族の支えだ」という気持ちの人が増えたようでした。

つまり、2020年は、多くの実習生たちにとって、家族に会いに帰ることができずに寂しい思いを強いられたけれど、ここ日本でがんばることで家族を支えようと前向きに思い直して暮らした――そんな一年だったように思えます。

母国で働くより「出稼ぎ」のほうが「実入り」がいい

新型コロナウイルス感染症の世界規模の拡大で国家間の移動が現在は不自由となっているが、古今東西、短期労働の就職先を母国以外に求める者は決して少なくない。では、なぜ、フィリピンの人たちは、日本の技能実習制度を利用して、「日本」という地を選ぶのか?

玉腰 フィリピン人は英語もできるので、英語圏に行けば苦労が少なくて済むはずです。にもかかわらず、日本語という高いハードルが待ち受ける日本を選ぶのはなぜなのか――フィリピン人に聞くと、まず、「近いから」といいます。地理的な近さが心理的なハードルを下げているようです。

ほかに、「日本に親戚がいたから」という答えがあります。日本人と結婚して暮らしているおばさんがいるとか、親戚のおばさんから日本に昔行っていたときの話を聞いたことがある、といったものです。二十数年前、先陣として日本に来たフィリピン女性の存在が次の世代の目を日本に向けさせたということでしょうか。兄がすでに日本で働いていて、弟が後から来たというケースもあります。親類を頼って異国に渡るというのは「移民」*7 の定番といえるでしょう。また、人数は多くないですが、日本のアニメなどが好きで、日本に興味を持ち、「日本で暮らしてみたかった」という若者もいます。

*7 国際連合広報センター[難民と移民の定義]によれば、「国際移民」の正式な法的定義はなく、多くの専門家は、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなすことに同意し、3カ月から12カ月間の移動を「短期的または一時的移住」、1年以上にわたる居住国の変更を「長期的または恒久移住」と呼んで区別することを一般的としている。

それぞれに、さまざまな理由で日本を選んできますが、根本のところはひとつで、「日本で稼げるから」です。実習生たちは、母国なら月に日本円で2万円から3万円稼げる程度なのが、日本では、最低賃金の水準で残業なしでも月に10万円前後の手取りとなり、フィリピンにいる家族には8万円ほどの仕送りができます。母国で働くより「出稼ぎ」のほうがはるかに「実入り」がいいわけです。

なかには「出稼ぎの達人」もいます。以前は中東で働いていたとか、韓国にいたとか、台湾で働いたという人たちがいます。彼ら彼女たちは出稼ぎ先から母国に戻ったとたんに収入が減ってしまうわけです。そうなると、安い賃金の母国で働くより、また次の出稼ぎ先を探して出ていこうとするわけです。それで、「今回は日本に来た」という人も珍しくありません。

だからといって、実習生たちが日本に来る意味を単純に「出稼ぎ」と言い切るのは必ずしも正しくない、とわたしは思います。

「技能実習」での人材育成が日本企業を飛躍させる

現在、日本の労働力人口*8 は2012年から微増傾向にあるが*9 、減り続ける生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)に伴い、今後の減少は疑いの余地がない。そうしたなか、外国人の労働力はとても貴重であり、働き手不足の職場と多くのお金を得たい技能実習生との「見かけ上の相性」は良い。しかし、実習生を単に労働力とみなすような、コロナ禍での解雇*10 といった “使い捨て”めいた事例もあり、「技能実習制度」の名目である「国際貢献」*11 とは程遠い現実が見え隠れしているが…。

*8  15歳以上の人口のうち,「就業者」と「完全失業者」を合わせたもの(総務省統計局/労働力調査 用語の解説より)
*9 「令和2年版厚生労働白書」より
*10 NHK WEBニュース記事「コロナ禍 行き場失う外国人技能実習生 国に実態調査を要請」などを参照
*11 「外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力することを目的としております」(厚生労働省[外国人技能実習制度について]より)

玉腰 たとえば、ある会社にこんな実例があります。

その会社は土木業で、23歳・34歳・41歳の3人の男性の技能実習生を採用しました。

23歳の実習生は、日本のアニメが大好きで「日本で働いてみたい」と思って来日しました。34歳の実習生は母国に7歳のお子さんがいるパパで、家族の生活費や息子の教育費の工面が来日の目的です。41歳の実習生は、8カ月から14歳までの4人のお子さんが母国にいて、34歳の実習生と同じように、その生活費や教育費の工面が目的でした。

来日した当初、23歳と34歳の二人は年齢が若いこともあって日本語の上達が早く、職場の日本人たちにいち早く溶け込みました。それに対して、41歳の実習生は、日本語がおぼつかなく、どちらかというと引っ込み思案となり、影が薄くなっていきました。

ところが、1年を過ぎた頃、重機の運転による高度な作業を任せてみたところ、41歳の実習生が高い技量を発揮しだしたのです。母国での経験が生きてきたのです。若いふたりが、ともすると難しい仕事を避け、軽い作業を望み、現場では「逃げることを覚えたな」などと揶揄(やゆ)されだしたのに対し、41歳の実習生は現場監督の指示にも従順で、任された仕事を次々にこなしていき、仕事の範囲が日に日に広がっていきました。仕事で実力を見せられるようになったことも彼のやる気を引き出したのでしょう。

日本人の現場監督の目から見れば、41歳の実習生は、あと2年も働けば、日本の土木業の「安全で、きれいな仕上がり」を身に付けて帰国するだろうと期待されるようになりました。

実は、フィリピンには日本の大手の建設会社(ゼネコン)が数多く進出しています。日本で「技能実習」し、日本人の仕事ぶりを覚え、日本語も多少分かれば、帰国後に日系企業で働けるかもしれません。日系企業では安定した賃金を望めるため、本人にもメリットがあります。フィリピンの土木施工技術はまだまだ雑だといわれていますが、今後、経済成長していけば、より精度の高さが必要とされていくでしょう。そうした場合に、日本で身に付けた仕事の方法が役に立ってくることも考えられます。

建設現場などでは外国人労働者(技能実習生)が貴重な働き手になっている 「オリイジン2020」より

つまり、「技能実習」で人材を育成することが、日本企業の海外展開に貢献するかもしれません。

技能実習制度が国際貢献をうたっていながら実態としては単純労働の受け皿になってしまっているという指摘はよく見ます。そういう側面も確かにあるでしょう。「技能実習です」と、こちらがいくら念を押しても、実習生本人たちが自分たちは「出稼ぎ」で来ているとしか思っていないかもしれません。それでも実質的には本人の仕事のスキルアップになっている場合があります。

単純労働の受け皿にするか、スキルアップにつなげて帰国してもらえるかは、制度の改善も大切ですが、むしろ、職場での人間関係や、実習生たちを見守る、周りの日本人の意識の持ち方に相当左右されているようにわたしは思います。

強い味方がいる、フィリピン人の技能実習生たち

本国の送り出し機関と日本の監理団体のあしき関係性が技能実習生の労働を搾取しているというメディア報道、また、ベトナム人の技能実習生などが何らかの犯罪に関与したというニュースも目立っている。玉腰さんは監理団体に在籍する者として、そうした状況をどう見ているのか。技能実習生たちの母国それぞれの、制度への向き合い方の「違い」はあるのだろうか。

玉腰 技能実習生に関する新聞報道やルポルタージュを読んだり、NHKなどのドキュメンタリー番組などを見たりすると、本当に心が痛みます。

2016年に外国人技能実習法*12 が制定され、外国人技能実習機構*13 が作られ、監理団体が認可制になり、いったんは技能実習制度の健全化が進むのではないかと思われました。

*12 「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」の略称
*13 外国人技能実習機構(OTIT)は、「外国人の技能、技術又は知識の修得、習熟又は熟達に関し、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能等の移転による国際協力を推進することを目的」としている。2017年(平成29年)設立。所在地は東京都港区。

しかし、同じ頃、実習生としてベトナム人が急増しました。そして、毎年の失踪者数が5000人から7000人、9000人と急増していき、状況は悪化したのです。報道で取り上げられる技能実習生にまつわる事件もほとんどがベトナム人に集中するようになりました。

フィリピンは、以前から「出稼ぎ立国」などと呼ばれているように、自国の労働者を海外に送り出して、その送金で経済を潤してきた国です。それを追随しているのが中国であり、最近のベトナムだと、わたしは思います。

「先輩格」のフィリピンには、国が出稼ぎ労働者を保護しようとする場面がよくあります。たとえば、実習生を日本に呼び寄せる際、駐日フィリピン大使館が申請書類を細かくチェックし、ときには賃金をもっと高く設定するよう要求してくることもあります。日本にいる実習生から何か問題が通報された場合には迅速に乗り出してきます。

わたしたちが関係しているフィリピン人実習生たちは、日本で何か不満があったとき、監理団体ではなく、母国の送り出し機関や日本語教育機関に連絡を取って窮状を訴えることがあります。そのほうが実習生たちにとって慣れない日本語ではなく、母国語で相談できて気持ちが伝わりやすいからでしょう。それに、スタッフや先生と親しい関係ができていて味方になってくれるので安心して話せるのでしょう。

このルートでクレームを受けると、監理団体は寝耳に水で問題を知ることになり、フィリピン側に不信感を持たれてしまいます。だから、そういうことがないように、わたしたちは日頃から実習生たちとよく会い、仕事や生活の様子を聞き、業務や人間関係に不満を言っていないかを聞き出すようにしています。フィリピンは、国も送り出し機関も、実習生の「強い味方」になっているようです。

ベトナムの場合はどうでしょう。丹念に取材されたルポによれば、ベトナム人の技能実習生の場合、日本に来る前に多額の借金を作ることが多い事実が明らかにされています。ベトナムの送り出し機関が実習生から大金を得て、実習生たちは日本に来てからその借金を返しているというのです。しかも、送り出し機関から日本の監理団体へのバックマージンがあったり、過剰な接待が行われたりと、ベトナム人の実習生たちは「悪徳業者」に食い物にされている側面もあるようです。

在留資格「技能実習」総在留外国人 国籍別構成比

「厳正な対処の姿勢」が監理団体の脅威になり得る

送り出し機関は、「技能実習生になろうとする者からの技能実習に係る求職の申込みを適切に本邦(日本国内)の監理団体に取り次ぐことができる者」と定義され*14 、日本国内の監理団体が、監理費に該当しない金銭を送り出し機関などの関係者から受け取ることは禁じられている。また、公的な調査によれば、ベトナムの送り出し機関は500弱あり、その数はフィリピンの1.5倍となっている*15 。同じ国の送り出し機関でも技能実習生になろうとする者への対応は異なるだろうが、数が多いだけに「右へ倣え」的な姿勢もあるのかもしれない。

*14 外国人技能実習機構(OTIT)[技能実習制度における送出機関]より
*15 外国人技能実習機構(OTIT)[送出し国・送出機関情報]より(2021年1月15日現在)

玉腰 フィリピン人の実習生は、借金をしてくる人もなかにはいるようですが、それは日本語の勉強をしている数カ月間の生活費や多少の渡航準備のためらしく、せいぜい10万円から30万円程度で、数カ月から1年以内で返せるものです。

母国での借金がないので、フィリピン人なら、日本で職場が合わないとか、何か不満があってどうしても解決がつかないときには、最悪の場合には帰国してしまえばよいのです。実際、ミスマッチが埋まらないときには本人の希望で帰国しています。そのときの帰国費用も通常は日本側の会社負担です。

会社側にしてみれば、高い費用をかけてフィリピンまで採用面接に行き、日本語学習の費用も負担し、寝起きする部屋や生活道具一切まで用意したりと、手間ひまをかけたあげく、帰国費用まで負担するのですから、丸損です。(実習の途中で)帰られては困る。その点でみれば、実習生と会社の労使関係が対等に近く、緊張感を持っているともいえます。

ベトナム人の実習生のなかには多額の借金を抱え、途中帰国になったら返しきれない膨大な借金が残るケースもあって、帰国できない人もいるのでしょう。そのため、会社がブラックでも実習生たちは我慢するしかない。どうしても我慢できなくなったり、試験に落ちたりして帰国しなければならなくなったときには、逃げて、違法状態で稼ぐしかない。失踪者が集まれば、犯罪につながる可能性も高まっていきます。

世界各国どこでもそうですが、外国人や移民に対して受け入れ側となる社会が直感的にネガティブな感情を持つのは、「治安秩序が損なわれる」「犯罪発生率が高くなる」という心配があるからでしょう。人口減少と高齢化で、社会を維持するのに若い労働力を外国人で補っている日本の現状で、不要に外国人排斥感情に直結する事例が頻発しているのは困った事態です。このまま続けば、偏見を助長し、まじめな外国人まで疑いの目で見られかねません。

それなら、国の機関(外国人技能実習機構など)が悪質な事例に厳正に対処すればいいではないか、という話になるでしょう。特にブラック企業に加担する監理団体の認可を取り消せばいい。実際、わたしたち監理団体の職員は認可を取り消されれば全員が失職するので、「取り消し」を相当な脅威に感じていて、コンプライアンスの徹底を心がけています。その意味では、2016年の外国人技能実習法の効果は相当にあると思っています。

ベトナム人の実習生が来日前に借金を背負う問題は、「厳正な対処の姿勢」が抑止効果をまだ持っていないと考えられます。外国人技能実習機構は日本の公的機関であって、国外にある送り出し機関までは是正の矛先が届きにくいのかもしれません。

わたしから見れば、つくづく、ベトナム人の技能実習生の問題は歯がゆく、残念です。

次稿(2月16日配信予定)に続く

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