ベトナム実習生2人→100人ロッジに 行き場失った末【朝日新聞2021年2月6日】

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レストランの厨房(ちゅうぼう)を使って、生春巻きを作る元技能実習生たち=新潟県長岡市寺泊野積

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昨年夏、日本海を望む新潟県内のロッジに、2人のベトナム人が助けを求めてやってきた。“仲間”はどんどん増え、年明けまでに100人を超えた。ここにも、新型コロナウイルスの影響が及んでいた。(杉山歩)

「助けてやろうよ」無償で食事

1月初め、雪が積もる同県長岡市寺泊地域のレストランで、数人のベトナム人女性が料理をしていた。店員ではない。隣のロッジで滞在中にお世話になった人たちへ振る舞うためだ。

ベトナム風お好み焼きを巻いたボリューム満点の生春巻き。それを眺めながら、「気持ちが伝わる。いつか戻ってきてもらいたい」と、ロッジとレストランを経営する諸橋康裕さんは言った。

話は、昨年夏ごろにさかのぼる。

中部地方の別の県で働いていたベトナム人2人が、ロッジにやってきた。外国人技能実習生だった2人は、実習先の電子部品会社が新型コロナの影響で倒産してしまい、やむなく農家に就労。そこも「仕事がない」と追い出されてしまい、頼ったのが、知り合いのベトナム人通訳が関連会社に勤めていた、このロッジだった。

関連会社は、外国人の在留資格申請などを担う事業所として国に認められた「登録支援機関」。諸橋さん自身はその事業に携わっていないが、「助けてやろうよ」と救いの手をさしのべた。無償で食事を出し、ロッジの部屋を貸した。

この情報がインターネットや口コミで全国のベトナム人実習生の間に広まり、行き場をなくした人たちが各地から集まってきた。その数、100人以上。文字通り北海道から沖縄まで様々な分野で実習していたが、業績悪化で解雇されたり、飛行機の減便で帰国できなかったりしていたという。

その一人、グェン・ティ・トゥオンさん(26)は長野県内の食品製造工場での実習を終えたが、帰国できなかった。宿舎に居続けられず、実習生の生活を監督する義務がある「監理団体」を頼ったものの、住む場所も仕事も「見つけてくれなかった」という。

実習中は、毎月10万円を家族に仕送りしていた。「安定的な仕事に就きたい。コロナが終わったら一時帰国したいけど、今は安定的な仕事」と話す。

実習先の変更や実習終了後の就労には本来、制限があるが、国は昨年、新型コロナ禍の特例として緩和した。ロッジに集まったベトナム人は、在留資格に関する必要な手続きを関連会社が担ったこともあり、全員が次の働き口を見つけられた。その際、関連会社には受け入れ企業からの登録料が入ったが、諸橋さんは滞在費に「たぶん何百万円も使ったよ」と話す。

都内の寺には300人

毎日の食事に加えて、資格試験の指導もした。実習生らに楽しんでもらおうと、知り合いの歌手の沢田知可子さんを招いたライブの開催や、花火を打ち上げたことも。「何でも一生懸命な彼女たちを尊敬しているし、応援したくなる。(寺泊のことを)発信もしてくれるだろう」と話す。

ロッジに、日本語の手紙が残っていた。

「ここの皆は私を大いに手伝ってくれました」「今週土曜日は引っ越します。皆さんお世話になります! ありがとうございました。チャンスがあったら会いたいです。お元気で!」

外国人実習生らが保護される例は、新潟だけでなく各地でみられる。

東京都港区の寺にも、昨年2月ごろから300人弱のベトナム人実習生や留学生が救いを求めてやって来た。この寺を拠点に滞日ベトナム人を支援するNPO法人・日越ともいき支援会の吉水慈豊(じほう)代表理事は「家と金と仕事がない子たちが増えてしまい、きりがないくらい多い」と言い、指摘する。「本来、国がやるところを民間に丸投げしている」

監理団体、不十分な支援

出入国在留管理庁によると、新型コロナウイルスの影響による解雇や実習先の倒産などで、全国で3396人の技能実習生が実習を続けられなくなった(昨年11月27日時点)。また、実習期間を終えた元実習生らのうち、約3万6500人が新型コロナ禍で帰国できないでいる(今年1月15日時点)。

こうした状況を受けて、政府は特例で救済策を設けた。在留資格を「技能実習」から「特定活動」に変えられることとし、異業種に転職したり、元実習生が帰国しないで国内で就労したりできるようにした。

それでも、働き先や住居を見つけられず路頭に迷う外国人が後を絶たない。「監理団体」が対応できていないことも一因だ。

監理団体は技能実習法に基づく非営利団体で、実習生を企業につなぐ役割を担う。商工会や中小企業組合でつくり、全国に約3千。監理団体を監督する国の認可法人「外国人技能実習機構」(OTIT)の担当者は、今回の特例に伴う実習先変更や再就職の支援、その間の住居確保などは「(監理団体に)責任を持ってもらう」と話す。

しかし、監理団体による住居確保などは実習前後の短期にとどまるのが通例で、コロナ禍で必要になった長期支援に十分な態勢を備えていない場合が多い。新潟県内の監理団体の一つ「新潟国際異業種協同組合」(新潟市)は、昨年4月に実習先の業績不振で働けなくなった実習生5人のためにアパート2部屋を急きょ借り、同11月まで1部屋月4万円の家賃負担を続けた。石井和昭代表理事は「30~40人とかになれば、面倒を見切れなかった」と話す。

OTITも再就職支援や宿泊支援の制度を用意している。今年度の利用実績は明らかにしていない。

《日越ともいき支援会顧問も務める斉藤善久・神戸大院准教授(アジア労働法)の話》 実習生の生活は監理団体が帰国まで責任を負うことになっているが、コロナ禍の中で支援し続けることは難しい。一方で、実習生からは「監理団体が“転職”を手伝ってくれない」という相談も多い。監理団体とすれば、(在留資格の変更など)「技能実習」の範囲外の支援には権限も能力もなく、利益もないため、後ろ向きになるのだろう。

在留資格のこともあり、実習生の解雇は日本人の解雇と意味が違う。技能実習自体が、いわば「働ける期間だけ働かせて送り返してしまおう」という制度で、働けなくなった状態の人をずっと世話するという発想がない。国策で人材を呼び込んでいるのだから、国が前面に出て仕事のマッチングまで責任を持たなければならない。

外国人技能実習

1993年に始まった。対象はとびや畜産農業、介護など83職種で最長5年。実習生は全国に40万2422人、新潟県内で4652人(昨年6月末)。監理団体が仲立ちするケースが多く、実習先の紹介をするほか、受け入れ企業が適切に実習しているか確認するなど実習中の支援も行う。日本の技術習得を制度の目的にうたっているが、実習先は単純労働が少なくなく、実態は不足する労働力の補塡(ほてん)になっているとの指摘が多い。

全国と新潟県内の外国人技能実習生の数

《出身国別》

ベトナム   21万8600(2362)

中国     7万6922(829)

フィリピン  3万4590(380)

インドネシア 3万3239(332)

《産業別》

製造業    21万8069(2989)

建設業    7万6567(669)

卸売・小売  3万1257(433)

医療・福祉  6523(77)

※新潟労働局「外国人雇用状況の届出状況」から(昨年10月末時点)。カッコ内は新潟県内分。働いていない実習生は含まれない。

朝日新聞デジタル

 昨年夏、日本海を望む新潟県内のロッジに、2人のベトナム人が助けを求めてやってきた。“仲間”はどんどん増え、年明けまでに…