技能実習生に日本語教育 将来を見据え、広島の監理団体【朝日新聞2021年2月3日】

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レ・ヴァン・チャン・ヴィエットさん(左)ら技能実習生と須山隆文社長(右)=2021年1月15日午後2時51分、広島市南区、三宅梨紗子撮影

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日本語ができれば、可能性が広がる――。海外から訪れる技能実習生の日本語教育に力を入れる人たちがいる。「少しでもよい生活が送れるように」。単身、故郷を離れた彼らの将来を見据え、実習生と歩む。

早朝5時に広島市を出発したグレーのワンボックス車は、師走の高速を関西空港へ向かう。

建設会社の社長、須山隆文さん(68)が同業の社長と2人で交代しながらハンドルを握る。

4時間半のドライブで空港に着き、到着ロビーで2時間ほど待っただろうか。須山さんの携帯が鳴り、若者たちが現れた。

レ・ヴァン・チャン・ヴィエットさん(25)ら男性4人。ベトナムから来た技能実習生だ。

コロナ禍の中、車内では会話を控え、広島市内のホテルへ4人を送り届けた。コップなどの生活用品と一緒に、タブレット端末を1台ずつ渡す。2週間の隔離生活の間、日本語の講習を受けてもらうためだ。

「建設業は現場で多数の人と共同作業をする。コミュニケーションがとれないと、もめ事が起きる」。須山さんは、実習生の日本語教育に力を入れている。

須山さんは建設会社「愛晃」(広島市南区)の社長で、広島県外壁補修工事業協同組合の理事長でもある。

業界の人材不足もあり、組合は15年ほど前からベトナムや中国、スリランカの技能実習生計60人以上を受け入れてきた。実習生の受け入れ窓口となる「監理団体」としての許可も得て、2月1日現在、7社でベトナム国籍の18人が働く。

来日前、送り出し機関で5カ月以上、日本語を学んできたレさんたちに、日本語教師の資格を持つ愛晃と組合の職員2人が、独自の教材も使いながら実践的な言葉を教える。

「仕事は何ですか」。後藤信栄さん(41)がパソコンの画面越しに尋ねると、実習生の一人が「防水加工です」と答える。

もう一人の講師役、鵜飼真由美さん(50)は「日本語を話せるようになると、継続的な収入につながる。将来を見据えて教えていきたい」と言う。

実習生が講習を終えて、働き始めてからも、平日にSNSで簡単な問題を出して解説するなど、継続して日本語を教えるという。

ホテルでの隔離生活を終え、寮に移った後も含めて1カ月続いた日本語講習が最終日を迎えた1月15日、記者は愛晃を訪ねた。

どうして日本で働くのか。レさんに尋ねると、片言だが丁寧な日本語で答えてくれた。「日本が好きです、日本語が好きです、お金を稼ぐためです」

来日前、送り出し機関に払う手数料など、日本円で約75万円にあたるお金を銀行で借りた。ベトナムの平均年収の2倍以上だ。両親やきょうだいと離れるのは寂しかったが、お金を稼いで両親に仕送りしたいと来日を決めたという。

「実習生は多額の借金をして来ている。最初の1年は返済、そこからやっと貯金できるくらいですよ」と社長の須山さんは言う。

日系企業の進出が進むベトナム。実習生にとって、日本語ができることは帰国後も大きな強みになるはずだ。「ここで成長し、帰ったときに少しでも給料が良いところで働いてほしい」と須山さんは願う。

「笑顔で頑張れよ。しっかり勉強しろよ」。講習を終えた4人に須山さんが声をかけ、肩をたたく。「はい、頑張ります」。笑顔の奥に、覚悟が感じられた。

技能実習生を受け入れるのは、愛晃のような企業ばかりではない。

外国人労働者の相談にも乗る広島市の労働組合「スクラムユニオン・ひろしま」の土屋信三委員長(69)は、日本語教育に力を入れる監理団体は「少ない」と話す。「先輩と母国語で会話することも多く、日本語が上達しない。日本社会とのつながりはほとんどないという実習生が多い」

外国人技能実習生問題弁護士連絡会に所属する端野真弁護士(広島弁護士会)は「監理団体そのものに問題がある場合、裁判や事件にならないと見えてこない」と指摘する。(三宅梨紗子)

〈技能実習生〉 日本の技術を海外に移転し、国際貢献する目的で1993年に外国人技能実習制度が始まった。実習期間は2017年に最長3年から同5年に。広島労働局によると、県内に約1万8千人(20年10月末)。県内の外国人労働者の約47%を占める。

監理団体は実習生が計画通り働いているか、賃金が適切に支払われているかなどを監査する。外国人技能実習機構によると、実習生の約97%(18年度)が監理団体を通じて採用される。1月29日現在、県内に163の監理団体がある。

朝日新聞デジタル

 日本語ができれば、可能性が広がる――。海外から訪れる技能実習生の日本語教育に力を入れる人たちがいる。「少しでもよい生活…