<32>出稼ぎ労働者の帰国を阻む「外貨稼ぎ」と「賄賂」【日刊ゲンダイ2021年1月27日】

定期便再開で合意も…(菅首相とベトナムのフック首相=代表撮影・共同)
定期便再開で合意も…(菅首相とベトナムのフック首相=代表撮影・共同)
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 母国へ帰国困難となっている在日ベトナム人は「2万人」に上るとされる。昨年11月以降、実習生と留学生を中心に4万人以上のベトナム人が来日したというのに、日本からベトナムへは戻れない。ベトナム政府が帰国を認めないのである。

 東京都内の人材派遣会社で働くフンさん(30)も、12月の帰国便がキャンセルになって日本にとどまることになった。

「ベトナム政府は国内でコロナ感染が広がることを恐れ、自国民を含め海外からの入国を止めている。だけど、感染だけなら厳格に隔離すれば防げる。ベトナム人の帰国まで拒む理由は、他にもあると思います」

そしてこう続ける。

「本音では、私たちに日本で出稼ぎを続けさせたいのです。コロナで危険な日本に、実習生や留学生を送り続けているのが何よりの証拠ですよ」

ベトナム人にとって日本は最大の出稼ぎ先だ。出稼ぎ目的で実習生や留学生として来日する者が急増した結果、在日ベトナム人の数は40万人を優に超えている。

その多くは母国へ仕送りをする。1人が年100万円を送っていれば4000億円、年10万円でも400億円だ。GDPの規模が日本の20分の1以下というベトナムには、小さな金額ではない。つまり、在日ベトナム人は外貨稼ぎの貴重な手段なのである。

コロナで困窮しようが、簡単に逃げ帰っては困る。それに政府の官僚からすると、出稼ぎの送り出しが止まれば業者からの賄賂収入が途絶えてしまうことになる。

菅義偉首相は昨年10月にベトナムを訪問した際、同国側と定期便の再開で合意した。にもかかわらず、日本発の定期便はおろかチャーター便すらほとんど飛んでいないのは、ベトナム側の“経済事情”も影響してのことなのだ。

フンさんが帰国するはずだったベトナム大使館チャーター便の航空券は、「2週間の隔離期間の費用込みで約20万円」だったという。この費用を日本側が負担するなら、ベトナム政府も在日ベトナム人たちの帰国に「ノー」とは言えないだろう。

日本が外国人労働者の帰国費用を負担した前例はある。2008年に「リーマン・ショック」が起きた際、ブラジルなど南米出身の日系人の失業者が急増した。その対策として日本は1人30万円の「帰国支援金」制度を設け、彼らに帰国を促した。そしてこの制度を使い、2万人の日系人が母国へ戻った。

ただし、当時は海外から「日本は日系人を使い捨てた」との批判が相次いだ。そのトラウマが日本政府には残っている。そもそも今回の場合、ベトナムなどから新規に出稼ぎ労働者を受け入れ続けているのだから、「帰国支援」などできるはずもない。

結果、日本で困窮する実習生や留学生は増える一方だ。彼らは両国政府に都合よく利用された揚げ句、見捨てられてしまった“棄民”と言える。(つづく)

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 母国へ帰国困難となっている在日ベトナム人は「2万人」に上るとされる。昨年11月以降、実習生と留学生を中心に4万人...…