
家畜盗難に関与したとみられる男がいた群馬県太田市内の建物=26日午前(画像の一部を加工しています)
北関東で家畜や果物が大量に盗まれた事件で、ベトナム人グループの関与が指摘されている。技能実習生として来日し、新型コロナウイルスの影響で仕事がなくなったことが背景にあるとも指摘されている。これまでにも技能実習生や留学生の労働環境が問題になってきたが、制度や運用を見直す必要があるのか。
事件は、埼玉、栃木、群馬の各県で起こった。技能実習研修を終えたが、コロナ禍でベトナムに帰国できない中、解雇され、生活に困って犯行に至ったという事情の人もいたようだ。
政府は、コロナ期間中に技能実習研修を終えた場合、新たな職場で働くことを認めるなど、人道的な配慮をしていたが、十分に機能していなかったのだろう。そもそも国内の雇用環境全体が悪化しているからだ。
技能実習研修制度は、そもそも海外進出した日本企業が現地法人から技術や知識を習得させるために現地社員を日本に招いたのに始まり、1993年に本格導入された。もともとの制度の趣旨はよかったが、近年では、当初の趣旨が失われて、単なる低賃金労働者の確保だという指摘もある。国際団体などから、外国人労働者の人権問題についての批判もある。
このため、政府も、2019年4月から新たな在留資格「特定技能」を新設し、人材不足が深刻な14業種を対象にした。19年度から5年間で最大34万5000人の外国人労働者の受け入れを見込み、技能実習研修制度の段階的な振り替えをもくろんでいる。
新たに設けられた特定技能資格は、単純労働での外国人材活用に門戸を開くものだが、外国人労働者の権利保護にも配慮している。
世界各国では、就労ビザを国内雇用環境などを考慮して管理するという方法が一般的なので、日本でもようやく世界標準の方法になったともいえる。
冒頭のベトナム人グループによるとみられる事件は、技能実習研修制度での人道的なコロナ対応がうまく機能しなかったことと、新たな特定技能制度も発足当初であることを背景とし、コロナ禍での外国人にとって厳しい雇用環境が招いた特異的な悲劇だろう。
むしろ問題は、外国人の技能実習生より、アルバイトだと筆者は考えている。日本では、留学生アルバイト30万人、技能実習生25万人程度が、「外国人労働者」となっている。先進国では、就学ビザの留学生は原則働けないのが一般的だ。留学生アルバイトについても、きちんとした就業条件での在留資格を与えて、しっかりと、国内雇用の確保の観点から管理すべきだ。そのほうが、国際的な摩擦が起きにくいし、無理に学業をさせることなく仕事に集中できる。
と同時に、在留者やその家族の社会保障制度などの適用においても、これまで不適切使用が何度も指摘されてきたので、誰からも文句の言われないような制度作りも併せて行うべきだろう。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)