「多いときは15人以上をタコ部屋に押し込めた」 相次ぐ‟外国人技能実習生犯罪”はなぜ起きるのか?【文春オンライン2020年11月3日】

入国後の隔離施設も‟密”状態

「やっぱりか……」

10月末に流れたあるニュースに、SNS上ではそんな声が相次いだ。

北関東で連続した家畜や果物の大量窃盗事件に関連し、群馬県警が10人の元技能実習生を含む13人のベトナム国籍の男女を出入国管理法違反の疑いで逮捕した、という報である。

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むろん、窃盗は言うまでもなく犯罪であり、許されることではない。被害に遭った畜産業者や農家の怒りやくやしさも、簡単に推し量れるものではない。

しかし我々は、外国人技能実習生の資質ばかりを問うことはできない。彼ら外国人技能実習生の受入れ体制にも、大きな問題が潜んでいるからだ。

外国人の技能実習には160時間以上の講習が必要

今年10月、技能実習制度の問題について取材を続けていた筆者のもとにある「内部告発」が寄せられた。告発者は関東にある、技能実習生の「入国後講習」を行う研修施設、S研修センターに最近まで勤務していたA氏だ。

「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」では、入国した技能実習生に対し、技能実習開始の前に少なくとも160時間以上の講習を受けさせることが、実習生の監理団体(企業らで作る実習生受入れのための組合)や受入れ企業に義務付けられている。

講習の内容は、「日本語」や、「日本での生活一般に関する知識」、「技能実習生の法的保護に必要な情報」、「円滑な技能等などの修得等に資する知識」となっている。

こうした講習を監理団体や受入れ企業から委託されて代行するのが、民間の研修施設である。いわば、来日した技能実習生にとっての、最初の拠り所である。

S研修センターは、全国の10以上の監理団体から入国後講習の委託を受けていたというが、A氏によるとそこで数々のルール違反が行われているという。

「これを見てください」

そういうとA氏は、スマホに保存されていた動画を再生した。そこには、車から降りてきた7人の男性が、大型スーツケースを担いで2階建ての一軒家へと次々に入っていく様子が映されていた。

A氏のスマホには7人の男性が部屋に入る様子が

玄関をくぐると、そこはすぐに部屋となっており、2段ベッドが所せましと並べられている。その数24床。男性らは各自、ベッドにありつくと、そこで荷解きを始めた。

実は彼らはこの日、カンボジアから成田空港に到着したばかりの技能実習生だという。

狭い部屋に多くの外国人研修生が……

多い時には1部屋に15人以上がすし詰めに……

A氏が話す。

「ここは、来日した技能実習生が最初の14日間を過ごす隔離施設です。技能実習生の受け入れは、新型コロナウイルス発生以降中断されていましたが、7月以降、タイやベトナム、カンボジアなどの国からは受入れが順次再開されています。ただ、条件となるのは入国後14日間の隔離です。厚労省の要請では、風呂とトイレが完備された個室に1名ずつ隔離することになっている。しかしうちでは、2段ベッドを並べたタコ部屋のような部屋に、多い時には15人以上を押し込めることもあった。タイミングによっては、違う国籍の実習生が混在することもあります」

部屋の中は2段ベッドが所狭しと並ぶ

動画を見ると、飛沫の拡散防止のためなのか、各ベッドには透明のビニールカーテンのようなものが便宜的に張られている。しかしベッドとベッドの間は人が行きかうことができないほど密接しており、1人でも感染者が混ざっていれば、簡単にクラスターが発生しそうなことは素人目にも明らかだ。

申し訳程度にビニールの仕切りはあるが…… 

さらにA氏によると、S研修センターでは、入国後講習の違法な短縮も横行しているという。

前述のとおり、技能実習開始の前には少なくとも160時間以上の講習を受けさせることが法令によって義務付けられている。かつ、講習は1日8時間以内かつ週5日以内で実施することとなっているので、160時間の講習を終えるには、最低でも4週間を要することとなる。

明らかに守られていない講習時間

しかし、A氏はS研修センターで、入国からわずか3週間ほどで受入れ企業に配属される実習生を数多く見てきたという。

その証拠としてA氏は、一枚の写真を見せてくれた。2020年10月22日に来日したとされる技能実習生の「入国確定書」の備考欄には「11月16日17:00以降に迎えに参ります」という受入れ企業からの連絡事項が記載されている。

10月22日に来日し、3週間後には配属に

来日から3週間では、14日間の隔離期間中(前述のとおり隔離も適切に行われていないが……)にオンライン講習を行ったとしても、講習は完了しないはずだ。にもかかわらず、実習生の配属がその日に設定されているのである。

こうしたコンプライアンス違反、法令違反について、S研修センターの代表を務める人物に電話でぶつけてみた。

タコ部屋のベッド間の空間は“密”状態だ

「あそこはオリエンテーションをしただけ」

しかし、「何言っているんですか! うちは、きちんとルールにのっとってやっていますよ。一軒家で隔離? あそこはオリエンテーションをしただけで、別の場所に移動して隔離していますよ。講習を短縮したことも一度もありません。もうこれ以上はお話しすることはありません! もうかけてこないでください!」と激高され、一方的に電話を切られてしまった。

一方、S研修センターの実態について、外国人技能実習制度の支援機関である公益財団法人・国際人材協力機構に問い合わせたところ、担当者はこう言う。

ただ、技能実習業界の内情をよく知るA氏によると、S研修センターも氷山の一角に過ぎないという。

「新型コロナで7月まで技能実習生の受入れが止まっていたせいで、一部の受入れ企業は労働力不足に陥っていて、『できるだけ早く実習生を寄越せ』といってくる。一方で、14日間、実習生を一人一部屋で隔離させるためのコストは、企業側は負いたがらない。

結果的に、下請けである研修施設が手を汚さざるを得なくなっていることも事実です。特に今は、多くの研修施設は、実習生の受け入れがストップしていた間の損失を取り戻そうと必死です。ちなみに、技能実習生を隔離から講習まで面倒を見て、監理団体から支払われる報酬は1人当たり10万円程度と薄利なので、研修施設としてはできるだけ多くの実習生を受入れたい。ルールを順守して仕事を失うよりは、違反しても生き残ろうとするのも無理からぬことです」

続々と室内へ

問題の根幹は、「技能実習」などというのは建前に過ぎず、実態は低廉な労働力の供給システムに過ぎないという詭弁の実態にありそうだ。

技能実習生にとっても、来日して初めて身を置く社会で、ルール違反が平然と行われていたとすれば、その後の順法精神への影響も少なくはないだろう。

文春オンライン

「やっぱりか……」10月末に流れたあるニュースに、SNS上ではそんな声が相次いだ。北関東で連続した家畜や果物の大量窃盗事…