技能実習生が減り続ける農業現場【Wedge2020年10月25日】

3月中旬以降、技能実習生が来日できなくなった。夏から一部の入国が再開されたとはいえ、わずかにとどまり、農業現場は人手不足に悩んでいる。中核的な人材として外国人を迎え入れようとしていた農業法人2社の現状を紹介する。

外国人インターンに「社員への道」考えるも入国できず

正八でネギを収穫するベトナム人技能実習生

「今年4月にフィリピンの大学からインターン3人がやってくるはずだったが、来日できなくなった。将来、社員への道も考えていたけれど、今はこういう状況なので見通しが立たない」

秋田県大潟村を中心に70ヘクタールで野菜や苗を作る農業法人・正八代表取締役の宮川正和さんはこう話す。秋田県は高齢化率が日本一で、大潟村の農家は周辺地域から働き手を集めるのが年々難しくなっている。宮川さんはコメを作らず、園芸作物に特化しており、生産には人手が欠かせない。そのため、2017年からベトナムの技能実習生を受け入れてきた。今春までは技能実習生8人、従業員総勢16人という体制だった。

今年5月にベトナム人技能実習生3人が帰国予定で、入れ替わりにフィリピンからのインターンを受け入れるはずだった。ベトナムの賃金上昇で日本の優先順位が年々下がりつつあり、ベトナム以外のルートを確保したかったのに加え、会社の中核となるような人材を受け入れられないかと考えたからだ。

「外国人も単なる安い労働者じゃなく、中堅どころ、幹部になりそうな優秀な人に来てもらえないか」

宮川さんは何年も前からこう考えており、独自に大学との協定締結にこぎつける。あとは受け入れるだけというタイミングでの新型コロナの流行だった。フィリピンとの行き来の再開が見通せない現状を残念がる。

技能実習生の採用決めるも不安

宮川正和さん

5月にベトナムに帰国予定だった技能実習生3人は、帰国できず、その後も正八に残って働いてきた。

「そのうちの2人が特定技能実習に在留資格を移行し、茨城県内に移っていった」(宮川さん)

もう1人はどうしても帰国したいと、正八で働きながらベトナムとの往来の再開を待っている。

宮川さんが作る農産物は、ほとんどが契約栽培だ。生産するネギやカボチャ、葉牡丹などは、大手飲食チェーンや生協、ホームセンターなどさまざまな取引先に向けて出荷する。緊急事態宣言が出される前後に外食産業の需要が落ちて取引が一時的に減った時期を除くと、契約はむしろ増えている。その分手間が増え、人手不足に拍車がかかってしまった。今は派遣業者に頼んで人手を確保するが、希望した人数が集まらない日もあり、なかなか思うようにいかない。

インターンを呼ぶはずだったフィリピンは、感染拡大をまだ抑え込めておらず、いつ往来ができるようになるかは未知数だ。そのため「ベトナムの技能実習生の面接をオンラインでし、来年6人受け入れる予定」。

「とはいえ、ベトナムからも入国できるのか。本当に来られるのか分からない」

農家団体で技能実習生100人超を受け入れ

小久保恭一さん

技能実習生を中核的な人材に育ててきた農業法人が、大分県豊後大野市にある。3.5ヘクタールで菊を栽培するお花屋さんぶんご清川だ。1輪仕立ての輪菊を中心に、年間350万本を出荷する。代表取締役の小久保恭一さんは、菊の生産者グループ・お花屋さん(愛知県田原市)の代表も兼ねる。グループの売上高は約20億円で、JA外の菊の生産者団体としては最大級だろう。

そもそも小久保さんは、仏花としての菊のイメージを確立した人物だ。加えて、育苗から箱詰めまで農家が一貫して担うのが当たり前だった時代に、苗を海外から輸入する国際分業を提唱し、実現する。今では菊の苗を輸入するのは、ごく当たり前になった。

技能実習生は、制度の運用が始まった初期から受け入れてきた。今は、技能実習生を受け入れる農家の団体を率いる立場だ。愛知、大分両県の50軒近い農家が加わっており、120人ほどの技能実習生を受け入れている。ところが、コロナ禍で「3分の1ほどが入国できなくなってしまった」。お花屋さんぶんご清川も、本来9人いた技能実習生が4人に減っている。

技能実習生を受け入れる一方で、小久保さんは経営のブラッシュアップに余念がない。年間を通じて菊を出荷するため、年に90作もしており、当然ながら通年での雇用を実現している。生産する菊は、品質の高さで知られており、高値で取引される。

ハウスの中には幅3メートルにもなる広い道が通っている。これは、出荷時にトラックをハウス内に乗り入れ、そのまま出られるようにするためだ。また、地上に潅水パイプを這わせるのが通常だけれども、頭上から潅水する。菊の植え替えのたびに潅水パイプを取り外し、再度設置する手間を省くためだ。

人の確保が年々難しくなっているため、人しかできなかった作業をロボットに担わせられないかとも考えている。詳しくは別稿(『コロナ禍で露呈した外国人労働者不足 ご都合主義に終止符を』)をご参照頂きたい。ここ数年、スマート農業がもてはやされるようになったけれども、小久保さんは35年も前にイスラエルからハウスを全自動で制御するシステムを導入しており、筋金入りだ。

経営の無駄は徹底して省く一方で、高い品質を保つには、どうしても人手が必要になる。ただ、農場のある山間の地域は過疎高齢化が進んでいて、地元で人を確保するのは容易ではない。技能実習生は欠かすことのできない働き手なのだ。同社で伴侶を見つけ、大分県に定住した技能実習生は4人にもなる。

小久保さんと実習生

「地域から人口がどんどん減っている。一方でマンパワーは必要なので、どちらかというと、自分は移民推進派だね」

小久保さんはこう話す。

技能実習生の入国が一部再開され、9月から週に数百人が入国している。法務省の新型コロナウィルス感染防止に係る上陸審査の状況(速報値)によると、8月31日~9月27日までの技能実習生の入国数は、1732人。とはいえ、2019年9月は1ヶ月で約2万人が入国しており、今の受け入れ人数とは開きがある。農業現場には受け入れのない状態で帰国だけが進むところも出てきた。

農業の人手不足はコロナ禍よりもずっと前から深刻化している。作業時期に偏りがあり周年雇用が難しい稲作を除くと、全国の大規模な経営体で技能実習生を見かけることは珍しくない。紹介した農業法人2社は、人材育成に定評があり、優れた経営で知られる。それでも人材確保に手を焼いている実情があるのだ。

技能実習制度に問題点は少なくなく、コロナ禍によってそのもろさが露わになった。より安定した形で外国人を雇用できる仕組みが必要ではないだろうか。

WEDGE Infinity(ウェッジ)

3月中旬以降、技能実習生が来日できなくなった。夏から一部の入国が再開されたとはいえ、わずかにとどまり、農業現場は人手不足…