来日できぬ実習生、地方の介護に崩壊の危機 競争も激化【朝日新聞2020年8月28日】

新型コロナウイルス対策の入国制限が続いている影響などで、外国人技能実習生が来日できず、各地の介護施設で人手不足が深刻化している。
急速な高齢化により介護需要が増す中で、実習生に頼る地方の施設では、「長期化すれば地域の介護が崩壊する」と危機感を募らせる。国は他業種で働く実習生の活用を図るが、効果は出ていない。(山中由睦)

中国人8人を採用、1人も来日できず

琵琶湖の北端にある滋賀県長浜市。社会福祉法人「まんてん」が5月に開所した介護施設を訪ねると、デイサービスなどに使う1階部分はがらんとし、2階のグループホームの数部屋も使われないままだった。担当者は「希望者は多いのに介護スタッフがおらず、受け入れられない」と嘆く。

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5月に開所した介護施設「まんてん高月」の2階。技能実習生が来日できず、利用者の受け入れができないため、一部の部屋は空いたままになっている=滋賀県長浜市高月町

 

「介護は大変とのイメージが先行し、人気がない」と山田一之理事長(65)。
正規職員の確保が進まず、外国人技能実習生に期待し、中国人8人を採用。
今年1月から働く予定だったが、新型コロナの影響で1人も来日できていない。

長浜市によると、特別養護老人ホームの入居待ちは昨年4月時点で市内では数百人にのぼるという。

青森県を中心に特別養護老人ホームやデイサービスなどを運営する社会福祉法人「楽晴会」も、4月から働く予定だった10人のバングラデシュ人実習生について来日のめどが立たない。

施設がある同県三沢市では高齢化が急速に進む。
国内の15~64歳の生産年齢人口は25年後に約25%減る見込みだが、同市では4割近く落ち込み、働き手は減る一方だ。
400人弱いる同会の介護職員には70代の高齢者もおり、毎年10人ほどが定年退職する。

斉藤淳理事長(60)は「実習生を安定して確保しないと持続的な運営はできない。
コロナ禍が長期化すれば、地方の介護はやっていけない」と話す。

厚生労働省の試算では、2016年度に190万人だった介護従事者は、高齢化で25年度には245万人が必要になる。
そのため、国は17年に技能実習制度を介護分野にも拡大。
制度を監督する外国人技能実習機構によると、現在は延べ約1万2千人が働くと推計されるが、コロナ禍で介護分野の人手不足はさらに深刻化している。

社会福祉法人などの経営支援をしている国際介護人材育成事業団(東京)によると、首都圏や九州の6法人が運営する施設でも実習生約40人のうち半数が来日していない。
小沼正昭専務理事(70)は「この状況が続けば介護現場が回らなくなる」と懸念する。

「都会で働くのを望む実習生は多い」

技能実習生の獲得競争は年々、激しさを増している。調理や清掃、建設などの各業種が現地で求人を出す中で、介護施設も待遇を日本人並みにするなどして人材確保を図る。

だが、介護に携わる実習生は高い日本語能力や介護の基礎知識が必要だ。
また、給与水準の高い都市部に比べ、地方には実習生が集まりにくいという。
大津市の介護施設で働く中国人実習生、米欣(べいきん)さん(24)は「東京や大阪は給与が高いという情報が広まり、都会で働くのを望む実習生は多い」と打ち明ける。

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介護施設で介護の研修を受ける中国からの技能実習生の米欣さん(左)。来日してまもなく2年になる(大津市、医療法人「湖青会」提供)

 

追い打ちをかけたのが、新型コロナ対策だ。日本政府は入国制限をかけ、一部の国は日本への実習生の送り出しを止めた。

そこで国は、人手不足の農業や介護職に人材を振り分けるため規制緩和をし、仕事先を失った建設業などで働く実習生を再就職させるマッチング事業を始めた。
8月17日現在の再就職者760人のうち、農業は263人だが、介護職は60人にとどまり、狙い通りには進んでいない。介護関係者は「仕事がきついイメージが他業種からの転向を難しくしている」とみる。

こうした取り組みについて、「求める技能が身につかず、『雇用の調整弁』扱いしている」との批判もある。
出入国在留管理庁の担当者は「建設業や製造業で仕事を失った実習生を助けるのが、主な政策の目的」と説明する。

一方で、コロナ禍が収束した後も見据え、介護分野で働く外国人材の安定的な確保は急務だ。
技能実習制度に詳しい静岡県立大の高畑幸教授は「数年で母国に戻る技能実習生は多い。
働きながら介護福祉士の資格を取得できるよう支援するなど、家族帯同で長期間日本で働ける環境づくりが必要だ」と指摘する。

朝日新聞デジタル

 新型コロナウイルス対策の入国制限が続いている影響などで、外国人技能実習生が来日できず、各地の介護施設で人手不足が深刻化…