コロナの時代 地方の再生 「稼ぐ競争」からの脱却を【毎日新聞2020年8月21日】

 新型コロナウイルスの感染拡大

は、外国人観光客の「インバウンド効果」で地方振興を図る国の戦略を大きく揺さぶった。これからの地方に、何が求められるのか。

 オホーツク海沿岸にある、北海道網走市。市内の水産加工場では、地元ホテルのスタッフがホタテの選別など、畑違いの作業にあたっている。

 道内の感染拡大に伴い、ホテルの宿泊客は最大9割減った。一方で、加工場は海外からの技能実習生が来ず、人手不足に陥った
そこで行政が仲介し、当面人材を融通し合う異例の協力が実現した。

 人口減少対策として、安倍政権は地方創生の取り組みを進めてきた。とりわけ、観光需要発掘によるインバウンド効果は、その柱だった。
政府が強調する「自治体の競争」「稼ぐ自治体」というコンセプトに合致していたためだ。

インバウンド頼み限界

 関西、九州などを中心に外国人観光客は地方を潤した。政府は今年「年間4000万人」という強気の目標を掲げていた。

 だが、コロナ禍は、地方の観光業界に深刻な打撃を与えている。昨年3000万人を超した訪日外国人は今年上半期、395万人に落ち込んだ。観光への傾斜は結果的に、地方の傷を深めた。

 「国策」として進めた以上、国は育ち始めた地域観光の芽を守るため、全力を挙げる責任がある。

 同時に、地方創生が観光一辺倒になりつつあったことを省みなければならない。
昨年、東京圏の人口は流入が流出を15万人上回った。その差は地方創生を掲げる前よりむしろ拡大している。「稼ぐ競争」は東京集中の流れを変えるに至っていない。

 むしろ、競争によってさまざまなひずみが生じている。「ふるさと納税」の寄付集めは、一部自治体が「アマゾン」のギフト券まで返礼品に用いる過剰競争を生んだ。政府は規制に動いたが、そもそも控除の上限を拡大し、あおったのは国の方だった。

 国が音頭を取る統合型リゾート(IR)構想も、カジノを合法化する弊害に加え、コロナ禍で収益上のリスクは増すばかりである。

 政府が「稼ぐ競争」を誘導し、自治体が人口を奪い合う発想からそろそろ卒業してはどうか。

 観光戦略に逆風が吹く中、政府は次の目玉に「スーパーシティ構想」を据えようとしている。
AI(人工知能)やビッグデータを活用した「未来都市」をつくるふれこみだ。
だが、規制緩和で自治体を競わせる手法は変わらない。

 子育て、自然環境、住民の交流などの暮らしやすさや、地域の特徴を生かした持続的な取り組みにもっと光を当てるべきだろう。
いくら地方への移住を自治体が呼びかけても、どんな地域を目指し、どのような役割を期待しているかが後回しだと結実しない。

持続できるビジョンで

 人口約1400人の岡山県西粟倉村は「上質な田舎へ」を合言葉に、森林を生かした地域構想を掲げている。50年後を見据え、森林資源を保全、活用しながらまちづくりを進めるプランだ。

 神戸市は市内の里山・農村地域への定住促進などで住居密集を避け、分散化を図ろうとしている。こうした発想に注目したい。

 競争よりも自治体同士、あるいは地域内での連帯や連携を追求すべきである。

 福井県は医療調査支援のため、東京都に県職員を派遣した。今般の感染拡大を受けて、多くの自治体が関与する形で、医療機関への資金や物資を募る運動が広がった。
NPOなどとの官民協力もみられる。これも新しい地域意識の表れだろう。

 もちろん、地方が自立して独自の戦略を構築していくためには、財源の裏付けが前提となる。
ふるさと納税の争奪を巡り、東京と他の地方がいがみあうような構図は不毛だ。地方全体が税を共有し、目的に応じて再配分し、連携するような仕組みも検討に値するのではないか。

 新型コロナウイルスによる地方経済への打撃は相当期間に及ぶだろう。網走のケースのように、いまは住民が支え合いながら、乗り越えていくしかない。

 大都市圏に住む若者が地方での暮らしに関心を示すなど、「ポストコロナ」に向けた新たなうねりも起き始めている。人口減少が進む中で、地域の将来をどう主体的に構想していくか。立ち止まり、再考する契機としたい。

毎日新聞

 新型コロナウイルスの感染拡大 は、外国人観光客の「インバウンド効果」で地方振興を図る国の戦略を大きく揺さぶった。これか…