入管法改正から30年。日本経済を支え続けてきた「日系ブラジル人」の再評価を【HARBOR BUSINESS 2020年8月7日】

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ここ30年間の日本人の生活にとって、実は日系ブラジル人の存在は切っても切れないものである、と聞いたら驚かれるでしょうか?
例えばトヨタ、ホンダ、ヤマハ、スズキ、スバルを筆頭に、日本の自動車メーカーと部品メーカー、さらにMade in Japanの携帯電話、家庭内で使われる電化製品の多くが、日本各地の工場で彼らによって製造されてきました。
この30年間の、日本の基幹産業は日系ブラジル人なくしてはありえませんでした。今後も彼らの存在なくして、日本は基幹産業に限らずさまざまな事業を経営していくことはできないでしょう。  これまでの彼らの貢献と実績は、日本ではあまりにも知られていません。
メディアや経済的な評価の場でも、ほとんど取り上げられてきませんでした。なぜでしょうか?

なぜ、日系ブラジル人が日本に?

JICA

かつて移住船が出航した横浜港に隣接するJICA横浜「海外移住資料館」では、日本から海外各地への移住史を大規模な展示とともに生々しく知ることができる

2020年、入国管理法が改正(1989年)→施行(1990年)されてから30年が経ちました。
そもそもこの法改正は、日本の基幹産業を支えてもらうために外国人の移住をしやすくするという“国策”によるもの。これによって「日本系」の労働者が日本に大量にやって来ました。
彼らは20世紀初頭以降に日本へ移住した、日本人の血が流れる子孫たちです。
南米大陸のペルーやパラグアイほか、日系人が多い国々からの来日もありますが、ズバ抜けて多いのが「日本人が世界で最も多く移民した国」=ブラジル連邦共和国籍の人たちです。
そして今や、ブラジル本国に限らず世界の英語メディアで「Dekasegi」という言葉は珍しくなくなりました。
2007年末は31万3771人もの「日系ブラジル人」が在留登録されました。
ところが2008年9月のリーマンショックの影響、さらに2011年東日本大震災の影響で、2015年末には17万5410人にまで減少。
しかし、2016年から増加に転じ、現在は再び20万人を越える日系ブラジル人が日本の基幹産業をはじめさまざまな産業を幅広く支えています。

現在も20万人を超える日系ブラジル人の労働力

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 法務省の公表では、2019年末の在留外国人数は293万3137人。前年末に比べ20万244人(+7.4%)の増加となり過去最高を記録。
日本の在留外国人は1位が中国人、2位が韓国人。いずれも往来や関係性の深い近隣国です。
続いて、長らく3位だったのは、日本の基幹産業を支えるために遠く地球の反対側から来たブラジル人でした。そのうちのほとんど、99%以上が日系ブラジル人です。
しかし、彼らは2011年の東日本大震災による経済・雇用の後退が起きて一方的に大量解雇され、日本政府による帰国支援もあってその数は減少しました。
翌2012年にはフィリピン人に抜かれて4位に後退。さらに近年はそのフィリピン人を抜くベトナム人の急激な増加によって、ブラジル人は5位となりました。
しかし、現在も20万人以上のブラジル人が在留、前年比+5.5%の増加率で日本経済に貢献しています。
● 法務省2019年発表の在留外国人数
3位 ベトナム人 37万1755人 (構成比13.1%/+12.4%)
4位 フィリピン人 27万7409人 (構成比 9.8%/+2.3%)
5位 ブラジル人 20万6886人(構成比 7.3%/+2.5%)  
この中で「外国人技能実習制度」による実習生が 1位 ベトナム人 約13万人 2位 中国人 約8万人 3位 フィリピン人 約3万人
*ブラジルは制度対象国ではない。

外国人労働者に、さらに頼らざるを得ない今後の日本

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 深刻な日本の人口減少問題とともに逼迫した労働力不足の問題。それを解消するために2018年10月、政府与党によって「出入国管理法改正案」が野党側の反発で紛糾する中、閣議決定。
2019年4月に「改正出入国管理法」が施行されました。
新・在留資格は特定技能を2段階設け、14業種への特定技能1号での受け入れ人数を5年間で最大34万5150人と想定したものです。
同時に「法務省入国管理局」が「出入国在留管理庁」へと改組されました。
まさに外国人労働者の力をさらに借りる流れとなっているのです。
しかし、日本側の都合による受け入れ体制や厳しい労働条件・待遇問題などをめぐり「今後の外国人労働者の獲得はこれまで通りには行かない・維持出来ないのではないか?」という懸念がすでに各方面からあげられているのが現状です。
さらに、コロナ禍の影響で外国人労働者の雇用状況は現在とても厳しい状況となっています。
帰国困難になる人や、急遽解雇されて泣く泣く帰国を強いられた人も少なくありません。
これまでの中国人やベトナム人から、本国の収入条件がより低いカンボジア人やラオス人などへと、日本側による外国人労働者のターゲットもシフトし始めています。
ここに見えるのは、変わらぬ日本側の都合による低賃金雇用条件、逆にアジア諸国の平均収入の上昇による日本への就労意欲の低下です。
さらに人材の使い捨てへの反発。外国人労働者の中からは「我々は奴隷でもロボットでもない」という声が出ています。
日本政府や各NPO団体もあらゆる支援に尽力していますが、まだまだ大きな改善が日本側には求められている状況と言えます。

日系ブラジル人への再評価、再注目を

ブラジル地図

 

 そんな中、今年、20万人を超える在日日系ブラジル人社会が30周年を迎えました。
さまざまな時代の変化の中で、最も長く日本の産業や社会を支えてきた彼ら。「30年の間に培ったノウハウと人間関係」は一朝一夕のものではありません。
それは日本にとっても大きな財産と言えるでしょう。
一方、ブラジル本国だけでなく日本国内でも「日系ブラジル人」と一言でカテゴライズするほど単一的な状況ではなく、その内訳は千差万別と言えます。
ここで在日日系ブラジル人について、また「日伯関係史」について、改めてフェアな評価・注目をすることは日本にとっても有効かつ、今後への大きな鍵になるのではないでしょうか。
30年の間、あまりにも日本人は在日日系ブラジル人との交流や理解・評価をしてきませんでした。
日本に住み、日本経済を30年に渡り支える貢献をしながらも、日本社会で孤立してきたと言える日系ブラジル人たち。
一方で、彼らは日本人の外国人への苦手意識、外国語力の低さはもとより、より大切なコミュニケーション力やタフネスの低さ、国際感覚や実体験不足の欠如を補い、教えてくれる友人でもあります。
ブラジルに限らず「日系人」とは、100年以上前から国際社会に出て生き抜いて来た、いわば“厳しい状況下で国際化された日本人像”でもあるのです。
一方、日本のブラジルへの資源・食糧をはじめとした依存度が大きいことも見逃せません。
ブラジル社会の各分野で活躍し、敬愛を集める偉大な日系人たちの歴史も、日本人はあまりにも知らない状況が続いています。
今後、日本が世界の中で生き抜いて行くためにも、ブラジルとの関係の強化、日系ブラジル人への評価・注目は、日本のライフラインの1つになるのではないでしょうか。
そして彼らとお互いに学び合い、長所・短所を補い合うことで、両国の将来を考えることができるのではないでしょうか。
ブラジルの親日感情や、日本への敬意がまだあるうちに。 <文・写真/KTa☆brasil(ケイタブラジル) 資料協力/JICA横浜「海外移住資料館」>

KTa☆brasil
東京生まれの日本人。世界各大陸で活動する音楽家、ライター、番組レポーター。神奈川県の在日米軍施設の近くで育つ。
同時にサッカー/野球/F1GPとの関わりから「汎ラテン圏の民衆力」に着眼。米国を経て1997年よりブラジル各地での活動を継続中。共著書『リオデジャネイロという生き方』(双葉社)ほか、寄稿多数。MTVやFM各局、NHKテレビ「スペイン語講座」などのレギュラー出演を経て、戦後日本体制の常識に疑問を持つ。世界各地の民族史と音楽史、移民史、混血文化史を、現地との関わりを持って研究し続けている。『Newsweek』誌「世界が尊敬する日本人100」に選出。Twitter:@KTa_brasil  公式サイト:keita-brasil.themedia.jp
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