「品格のある労働環境で、外国人と共に生きよう」 にしゃんたさんが描く「新・日本的経営」【弁護士ドットコム2020年8月2日】

「品格のある労働環境で、外国人と共に生きよう」 にしゃんたさんが描く「新・日本的経営」

新型コロナウイルスの影響で、訪日外国人客の姿が日本から消えました。
国内では外国人労働者が仕事を失う「コロナ切り」に苦しんでいます。
スリランカ出身で、羽衣国際大学の教授、にしゃんたさんは、コロナ禍で日本人の排他性が強くなっていることに危機感を抱いています。
「違いを包含・包摂した品格のある労働環境をつくり、発展性のある日本社会をつくってほしい」と呼び掛けます。(ライター・国分瑠衣子)

●ウイルスへの恐怖から他者への攻撃が強くなった

――コロナショックで、日本はどのように変わったと感じますか。

「ウイルスへの不安や恐怖でゆとりがなくなり、他者を攻撃するようになったと感じます。
社会の大らかさがなくなった。日本社会・人々の本質的な部分が表面化したとも言えるでしょう。
他者を排除、攻撃する顔を覗かせ、『コロナ切り』など労働環境のもろさが露呈しました。
この最中での東京都知事選は、在日外国人排除や分断を煽る政治思想の支持が増すなど、社会として違いを認め合い、共生するゆとりがなくなってきていることを象徴する出来事です」

――国が特定技能や、専門性の高い仕事に就く高度外国人材の受け入れに力を入れ、多文化共生を進めようとしていたのに、失速したことは残念です。

「確かに、徐々に法整備が進み、外国人が労働力に占める割合も2%を超えるまで増えてきていたので、実にもったいない。
コロナ禍で日本人も仕事を失い、しんどい思いをしていますが、真っ先に『コロナ切り』にあったのは外国人労働者と言っても過言ではありません
この局面で企業は、責任と気概を持った雇用、そして力を結集してイノベーションを生み出そうとする発想が大事です」

●人を大切にしてきた日本的経営、多様性を軸に復活してほしい

――30年以上前のバブル期にも日系ブラジル人など、外国人労働者の受け入れが注目されましたが、日本の企業や社会が『働く仲間』として同等に迎え入れる日はやってくるのでしょうか。

「日本にその気があればもちろん可能です。
そうあって欲しいと願っています。ただ現実はというと、難しい気がします。40万人近くいる『技能実習制度』ですが、『実習生』の実態は低賃金労働者です。
『現代の奴隷制』という悪名を払拭するために現れたのが、『特定技能』という在留資格です。

日本人と同等の処遇や賃金の支払い、間接雇用の原則禁止が謳い文句ですが、この枠での雇用が一向に進んでいません。
これは、日本で外国人本当の意味で『働く仲間』になっているかどうかを見極めるバロメーターです。
また、外国人によって日本人の賃金が下がるのではとの懸念から『外国人対日本人』という対立軸が生まれて外国人にストレスのはけ口が向かわないかも心配です。

共生を考えるならば、品格のある労働環境、生活環境をつくることです。
日本人がやりたがらない仕事だから外国人を集めようとする考え方は健全ではない。
もちろん、技能実習生を家族のように受け入れている会社はあります。
ただ、ほとんどが品格のある雇用をしていないように感じます。

一般的には、彼らに対して日本の労働基準関係法令が適用されているという感覚での雇用形態にはなっておらず、仕事苦での逃亡者や自殺者が出ている始末です。
日本の品格を守るためにも、この際、技能実習制度を廃止し、特定技能という新しい制度への完全移行を望む声が強い。

私が日本の大学を卒業した時も不況で、就職採用では日本人が優先されました。
過去の成功体験にしがみつき守りに入った日本が、あの時、新しい時代に向けてイノベーションを起こすために多様性を受け入れる方向へと舵を切っていれば、『失われた30年』などと言われることはなかったのではないかと思います。
シニア、女性、外国人といった多様な立場の人を意思決定の場に入れていたら、状況は変わっていたのではないかと」

――30年前と国や企業の体質はあまり変わってないということですか。

「頑張って変えようとしてはいますが、現時点でそれはごく一部で、断片的です。
総じて変化していないと言っていいと思います。同質性を重んじる流れは、コロナ禍のような時に露骨に出てきます。
同質のものを残し、異質なものは排除する。日本に限った話ではなく、これは人間の本能でしょうか。

戦後、労働者を安定的に確保するために終身雇用、労使協調型の日本的経営が生まれました。
1980年代には、世界中から称賛されました。しかし、バブルが崩壊してからは、随分と状況が変わり、従業員を軽視していると批判されることも多くなりました。
これから、日本の企業が復活するためには、あらためて人を『財』として向き合うことが求められます。
現状では、『労働分配率』をベースに労使が対立しています。これからは、企業も成長し、労働者もハッピーになる相乗効果を、さらには社会全体と三方良しにしていくことが必要なのです。

グローバル時代において次から次に新しい付加価値を生み出す力が求められています。
その際には、同質性ではなく、多様性を軸に進める必要があります。外国人労働者を含めて、多様な人たちを同化することなく、違いを『財』として大切にし、化学反応を起こしてほしいのです」

●優秀な留学生たちが、日本に残りたいと思えるような環境を

――国は高度外国人材を増やす計画です。日本の正社員と同等の働き方ができるとされていますが、浸透していないように思います。

「高度外国人材については、様々な在留資格が想定されますが、『高度専門職』と『技術・人文知識・国際業務』という2つの在留資格をみてみましょう。
日本は『高度専門職』というビザを作って2022年までに2万人を目指していますが、徐々に増えているものの、その数は2019年6月時点で13,000人台と少ない。
『技術・人文知識・国際業務』の在留者は25万人を超えています。

高度外国人材を確保する上で大きな柱となるのは、日本の大学などの教育機関に留学した卒業生です。
留学生10万人計画が中曽根総理の時代にはじまり、今の目標は30万人になっています。この人たちは日本にとって財産ですが、吸収しきれていません。

世界中が高度人材を獲得に乗り出していますが、国際比較の中で日本のポジションを客観的に把握する上で、OECDが発表している『高学歴労働者にとって魅力的な国ランキング』やIMDが発表する『世界人材の人気国ランキング』が参考になると思いますが、いずれも現時点での日本の順位は低い。

英語を公用語にしている会社も少ない。
それも一因です。僕の母国、スリランカでは英語ができることが重視される。
大卒で英語ができない人か、高卒だけど英語が話せる人、企業はどちらを雇うかというと、後者です。
なぜなら貿易でしか成り立たない国という自覚があるからです。

日本はどうでしょうか。これまでは同質の仲間でやっていけたのかもしれませんが、それが及ばなくなる時代がくると思います」

●日本人と外国人が一緒にコロナに立ち向かう「グッドニュース」を

――「品格」という言葉を繰り返し使われています。にしゃんたさんの言う品格とはどのようなイメージでしょうか。

「ここでいう『品格』とは、労働者としてだけではなく、同じ人間として向き合ってくれるか。
差別の心なく、兄弟、家族のような向き合い方、日本人同士と同じような関係性を築けるかということです。お互いのアイデンティティや多様性を尊重しながら、共有の文化を築いていく努力を重ねることです。

僕は京都に住んでいますが、コロナウイルスが広がるまでは、インバウンドの外国人旅行客が多く訪れていて『街が混雑しすぎるから、こないでほしい』というようなことを言う人が現れました。
観光業に携わっていない人は特に、インバウンドのありがたみを感じていた人は少ないと思います。
外国人をありがたい存在にできている人と、そうでない人の大きな乖離があった。
しかし、京都では長年に渡って赤字経営が続いていた地下鉄が、インバウンドのおかげで初めて黒字化しました。日本の繁栄にとって、なくてはならない存在なのです。

日本には外国人が300万人近く住んでいて、OECDの中で、日本の流入はドイツ、アメリカ、イギリスに次いで4位になりました。
しかし、『移民統合指数』は、日本は他の先進諸国と比べ遅れています。

日本が品格をもって外国人を受け入れるためには、『入管政策』と『社会的統合政策』を同時に進める必要があります。
お互いのアイデンティティや文化などを尊重しあえる土台をつくるためにも、移民を受け入れる国々に存在するような『多文化共生社会基本法』のような法律を早急に作る必要性を感じています」

――希望を感じた出来事はありますか。

最近で言えば、愛知県のお寺の住職が、コロナ禍で仕事を失った全国から集まってきたベトナム人技能実習生に衣食住を提供しているというニュースがうれしかったですね。

日本は、東日本大震災の時に大きな被害を受けましたが、慌てることなく復興への歩みを進め、世界中から絶賛されました。

今回も、そういったいい話が日本でたくさん誕生したら嬉しいです。仕事を失って食うにも困ったり、帰国できない外国人を、日本人が温かく支えていることや、日本人と外国人が一緒に、コロナ禍から立ち直ろうと頑張っている姿など、そんないいニュースをたくさん見聞きできるようになればと願っています」

【プロフィール】1969年スリランカ生まれ。87年に初来日。立命館大学経営学部卒業。2005年に日本国籍を取得。山口県立大学准教授などを経て、15年から羽衣国際大学現代社会学部教授。

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